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第4回公判(2010.11.30)

 

(6)表情一つ変えず求刑を聞く被告 最後の陳述でも「特にないです」

山本被告

 中央大学理工学部教授の高窪統(はじめ)さん=当時(45)=を刺殺したとして殺人罪に問われた卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)の裁判員裁判員第4回公判が東京地裁(今崎幸彦裁判長)で開かれている。女性検察官が論告求刑を続けている。まもなく求刑の瞬間だ。

 女性検察官は、被告の罪を軽くする事情として、被告に前科がなく、罪を認めていることを指摘した上で、裁判員を見つめて、はっきりとした声で続けた。

検察官「刑罰を決める上で、注意していただきたいことがあります。被告は妄想性障害ですが、刑罰と治療の関係の考え方です」

 検察側と弁護側の双方に、「犯行当時、山本被告は妄想性障害にかかり、心神耗弱状態だった」という点で争いはなく、争点は量刑のみだ。

 検察官は、これから行われる最終弁論で、弁護人が、被告は治療施設に長く入れるべきだと主張するだろうと推測した。

検察官「そのような考えは誤っています。精神障害だけを理由に刑罰を軽くしたり、短くしたりするのはこの事件を適切に評価していません」

 検察官は、全国にある4つの医療刑務所について説明を始めた。医療刑務所では常勤の医師が精神障害に対応しているという。

検察官「医療刑務所で十分対応が可能です。治療と刑罰が両立できるのです」

 山本被告は、細かくまばたきをしながら、検察官を見据えている。

検察官「このままの状態で被告を社会に戻すと同じ犯罪を起こす恐れがあります」

 続いて、検察官は評議などの際、量刑の参考のために裁判員に示される「量刑資料」について批判した。「量刑資料」に記載されている事案は、無理心中など親族間の殺人がほとんどで、今回の事案とは本質が違う、と訴えた。

検察官「量刑資料は不完全に過ぎません。被告人の刑罰を決めるにあたって、本当に必要な刑罰を掘り下げて考えていただくしかありません」

 検察官は再び、遺族が極刑を求めていることなど刑罰を重くする事情と山本被告が罪を認めていることなど、罪を軽くする事情について繰り返した。

検察官「有期刑の10年以上ではあまりに軽すぎると考えます。殺人罪の中でも、無期懲役から選んだ方がよく、20年に処すのが相当と考えます」

 検察官がはっきりと求刑を告げた。山本被告はしきりにまばたきをし、まっすぐ前を見据えたまま、これまで同様に表情一つ変えることなく、求刑を聞いた。

検察官「これまで述べてきた事情を踏まえ、真に被告人に適した刑罰を考えていただきたいと思います」

 右端の女性裁判員が求刑を聞き、周りの裁判員の様子をうかがうように横を向いた。

 続いて、男性弁護人が最終弁論を読み上げ始めた。

弁護人「山本君が施設内処遇を回避すべきと考えるものではありません。施設内処遇を受け、本人に自覚をさせ、本人の更生をはかるべきだと考えています」

 検察官が求刑で、弁護人が施設内処遇を回避しようとするだろうと推測したことに反論をした格好だ。

弁護人「(被告が)心神耗弱状態だということに争いはありません」

「被告人の言動を裁判員はごらんになれば、彼が今も妄想から逃れることができないことを目の当たりにされたと思います」

 弁護人は、鑑定人が山本被告の症状が軽減されたとの認識を示したことについて説明を始めた。

弁護人「山本君は(刑が定まる前の)未決囚として独居、つまり独り部屋におり、ある種、特別な環境にいます。刑務所では、雑居房、集団監視体制で暮らしていかねばなりません」

「国内には4カ所医療刑務所があります。山本君が収容されるには、妄想が深化増大して、集団生活が困難な場合です。刑務所は療養施設ではありません。自由刑(身体の自由を拘束する刑罰)の刑期は犯した罪に対応するものとして決定されなければなりません」

「山本君に相当の刑を決定するのに考慮するべき事情を説明いたします」

「山本君は本来、素直でまじめな青年であり、日常生活を過ごすに何ら問題はありませんでした」

 弁護人は、山本被告が研究室の発表でからかわれたときは無視し、企業から試用期間満了を待たずに解雇された際には、言葉で反撃しただけだったと触れた上で、高窪さんに対する妄想について説明を始めた。

弁護人「高窪先生に対する妄想は、将来にわたって継続的に山本君を監視し、攻撃し、追いつめ、最後には死に至らしめられるかもしれないという強固な妄想で、これに対する反撃として殺害を決意したものです」

「この事件を理解するには、裁判員には、仮説に立った想像力が求められていると弁護人は確信しています」

「山本君の抱いた妄想はあくまでも妄想であって現実に起こっているものではありません。しかし、山本君にとっては現実そのものなのです」

 自宅が盗聴されている、外出しても尾行されている−など、山本被告が抱いた妄想を例示していった。

弁護人「彼は間違いなく危険だと実感したのです。この攻撃が現実のものであったとすれば、山本君の決意は奇異なものではありません」

 弁護人は、裁判員を見据え、はっきりとした口調で述べた。

弁護人「妄想は精神障害に基づくものであり、病です。病を得たことが、非難されることではありません」

「山本君の抱いた動機の多くが、妄想に起因していることを冷静に判断してほしい。山本君に向けられる非難は、妄想性障害に寄せられる非難を排除したものでなくてはなりません」

 山本被告は、細かくまばたきをし、背中をやや丸めている。

弁護人「懲役6年の刑に処するのが相当だと弁護人は考えます」

「そして、出所後は、医学的な対処や、私の事務所を訪ねることで環境調整してもらいたいと思っています」

 今崎裁判長が告げた。

裁判長「被告人は前へ」

 刑務官に付き添われ、山本被告が裁判長の正面に歩いていった。

裁判長「以上で審理を終わります。次回は判決の言い渡しになります」

 裁判長が、被告に何か言いたいことがあるか発言を促した。

山本被告「特にないです」

 山本被告は、大きく腰を折るぎこちないしぐさで一礼した。

裁判長「特にないでいいですか」

山本被告「はい」

 被告が再び、大きく一礼した。

裁判長「それでは判決ですが、12月2日木曜日の午後3時から、この法廷で言い渡すこととします。それでは閉廷いたします」

 山本被告は刑務官に促され、立ち上がると再び頭を下げた。

⇒第5回公判