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第4回公判(2010.11.30)

 

(3)「みなさんが幸せなら、私もハッピー」 教授が残した言葉は…

家宅捜査

 中央大学卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)に刺殺された中央大学理工学部教授の高窪統(はじめ)さん=当時(45)=の教え子だった卒業生の調書を、男性検察官が読み上げている。卒業生は大学4年次に高窪さんの研究室に所属していたが、高窪さんは進路や研究について親身になって相談に乗ってくれたという。

検察官「実験結果がうまく出ないときは、夜、遅くまで付き合ってくれ、うまくいくと、『良かったですね』と喜んでくれました。私たちが困ったり、壁にぶち当たったりすると、そっと寄ってきて手を差しのべてくれる優しい先生でした」

 続いて、別の卒業生の調書も読み上げられた。この卒業生は、大学院生のときに高窪さんの指導を受けていた。

検察官「高窪先生は、『研究室をみんなが集まりたくなる場所にしましょう』『みなさんが幸せなら、私もハッピーなんです』とよく話していました」

 また、卒業生は、平成15年に行われた夏合宿の打ち上げでの、高窪さんの印象的な姿についても話したという。

検察官「打ち上げで珍しくお酒に酔った高窪先生が、『高窪研究室、バンザーイ』と言いました。これに続いて、みんなでバンザイをしました。忘れられない思い出です」

 男性検察官による、調書の読み上げが続く。大学4年次と大学院生のときに研究室に所属していたという在学生は、「高窪先生は朝早く研究室に来て、測定機を使って黙々と測定をしていた。人に教えることと研究を両立している先生はすごいな、と改めて尊敬した」と振り返った。また、こんなエピソードも紹介したという。

検察官「私は大学院に進学して、高窪先生のような研究者になりたいと思ってましたが、自信がありませんでした。また、人と話すのが苦手で、先生に変な奴だと思われているんじゃないかと思っていました」

 検察側の冒頭陳述などによると、山本被告も自分の腕や顔に自傷行為の跡があることから、高窪さんらに不審な目で見られているのではないかと感じて孤立感を募らせたといい、境遇に重なる点も感じられる。しかし、この在学生は勇気を出して高窪さんに進学希望を伝えたところ、こんな言葉で励まされたという。

検察官「高窪先生は『君は人と上手に話せるようになれば大丈夫です。人と話すのが苦手で、一人で勉強して、これだけの成績が得られるのは優秀ですよ』と言ってくれました。私はあと2年間、高窪先生のもとで勉強できると、天にも昇る気持ちでした」

 しかし、その願いは事件によって断たれることになる。

検察官「高窪先生が亡くなってから約1カ月後に、ホテルでお別れ会がありましたが、研究室でお別れをしなければ本当の意味でお別れできないと思い、研究室へ行きました」

「そこで、(女優の)石橋優子さんの『永久(とわ)に結ひて』という歌が出てきました。先生と過ごした時間を思い出して、ふと口に出ました。先生への感謝の念を込めて大きな声で歌いましたが、あふれる涙を抑えることはできませんでした」

 在学生の調書は「先生が指導教授でなければ、大学院進学はできなかったし、今の自分はいませんでした」という、高窪さんへの感謝の言葉で結ばれていた。男性検察官は、別の在学生の調書も読み上げた。

検察官「高窪先生が1時間以上、学生の質問に付き合っていた姿を見たことがあります。とても家族を大事にしていて、家族の話をするときはいつも優しい表情でした。先生は家族を愛しているんだと思い、尊敬していました」

 中央大学理工学部の学部長も、高窪さんの早すぎる死を悼んだという。

検察官「高窪先生と大学運営について話し合う機会があったが、第一印象は『これほど立ち居振る舞いに品のある人がこの理工学部にいたのか』というものでした。高窪先生は人の話を聞き、方針が決まると、次回までに学科の意見をまとめてきてくれました」

「電気電子情報通信工学科で最も若い教授でしたが、誠実で信頼のおける人物でした。学生とともに研究することや、子供のことをうれしそうに話していました」

 また、学部長はどこかの発行物に寄せられていた高窪さんの印象的な文章を引用し、こう話したという。

検察官「高窪先生のエッセーか何かに『習う、教える』だけでなく、『任す、期待する』ことを重視して、能動的な人材を育てるべき、という記述がありました。中央大学の定年は70歳ですから、まさにこれからというときでした…」

 高窪さんと同分野の研究を行っている東京大学大学院の教授は、高窪さんを「極めて高潔、誠実な人柄で、とても人から恨みを買う人じゃなかった」と評したという。ともに英文論文誌の編集作業を担当した際、高窪さんはどんな仕事でもにこやかに『はい、分かりました』と快諾。精力的に仕事をこなした高窪さんに、学会は「特別功労賞」を授与する方針という。

検察官「高窪先生がこの分野のトップランナーの一人であったことは間違いありません。数年後には、『回路とシステム』研究専門委員会の専門委員長になっていたと思います。先生を失ったことは、社会全体にとっての甚大な損失に他なりません」

 また、同分野の研究者である東京工業大学の匿名教授も「高窪先生は若くして教授になった新進気鋭の研究者で、アナログ界を背負って立つ人でした。わが国のアナログ回路研究にとって、多大な損失です」と話したという。

 ここで、男性検察官に代わって女性検察官が立ち上がり、「本件が及ぼした影響について」という捜査報告書の説明を始めた。高窪さんの研究室に大学院生として所属していた在校生は、現在も事件の影響を引きずっているという。

検察官「高窪先生は、小便器の前に立っていたときに後ろから襲われたということでした。今、大学のトイレで小便器を使うことができず、いつも個室を探しています。やむなく小便器を使ったこともありますが、誰かが後ろから襲ってくるんじゃないかと、何度も振り返りました」

 理工学部長の説明によれば、大学は防犯カメラの増設やカウンセリングの実施、トイレの改修などで計5千万円以上の負担を余儀なくされたという。また、同僚教授も「自分は研究室に入ってきた学生をビシビシ鍛えてきましたが、これからはそういうやり方も変えていかなければならないかもしれない。寂しい限りです」と話したという。

 事件の与えた影響の大きさを立証する検察官を、被告人席の山本被告は無表情でじっと見つめていた。

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