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第4回公判(2010.11.30)

 

(4)「驚き、悔しかったでしょう」「愛する家族を思ったでしょう」息子の死の瞬間に思いをはせる母親

山本被告

 中央大学理工学部教授の高窪統(はじめ)さん=当時(45)=を刺殺したとして、殺人罪に問われた卒業生で元家庭用品販売店従業員、山本竜太被告(29)の裁判員裁判は、高窪さんに関係する人たちの供述調書の朗読が続いている。女性検察官が、高窪さんと親交のあった東京理科大教授の話を読み上げる。

検察官「事件後、教員の間でも学生への指導法について議論になりました。最近は学生と教員の隔たりがなくなり、友達感覚になっています。当大にも内向的な学生は多く、親から甘やかされ、先生も独占したいと考える学生もいます」

「しかし、ある日突然、指導方法を変えたところで、学生の性格が変わるわけではありません。むしろ恨みを買うことになりかねません。事件発生当初は、犯人が学生でなければいいのにね、と教員同士で話していました。教員はみな、苦悩しています」

 続いて、大学内で勤務する清掃員の供述調書が朗読される。

検察官「私は(事件のあった昨年)1月14日の早朝、(大学の)1号館4階のトイレで勤務しており、男が教室に入っていくのを見ました。私が見た男が、先生を殺した犯人かもしれない、と聞きました。顔を見ていたら殺されていたかもしれない。刃物に気付いていたら、刺されていたかもしれない。何ともいえない気持ち悪さを感じました」

「事件が起こるまではトイレで清掃中に人がいても、何とも思いませんでした。しかし、事件後は人がいるとびくっとしてしまいます。ひょっとしたら殺されていたかもしれない。そう考えると、ますます怖くなってしまいます」

 さらに近隣住民の話として、中大近くの寺に住む女性の調書が読み上げられる。

検察官「都会の中心にあっても、このあたりは割と平穏で、事件の前は夜、寝るまで門扉を開けっ放しにしていました。しかし、事件後、犯人が捕まらない状況でだんだん心細くなり、午後5時には駐車場の門扉を閉めるようになりました。うちは寺ですが、入ってくる人に敏感になっていきました」

 山本被告は犯行後、この寺の駐車場に一時立ち寄ったという。

検察官「この日は檀家(だんか)のお客さんが入る部屋の掃除をしていて、外に出ていませんでした。何かの用事で犯人に出くわしていたら、と思うと、生きた心地がしません」

 関係者の供述調書の読み上げが終わり、今崎幸彦裁判長は高窪さんの母親の意見陳述の申し出があることを説明。女性検察官に代わって読み上げるよう促す。

検察官「なぜ優しい息子が殺されなければならなかったのか。日々繰り返し考えています。息子は研究者の道に進み日々努力を続け、家庭では3人の子供たちを愛する素晴らしい父親でした。私をはじめ、家族みんなが悲しみの涙を流しています」

 母親の文章で、高窪さんの幼少時代からの歩みが語られる。

検察官「息子は夫との間に生まれた3人目の子供で、初めての男の子でした。初めて歩いたとき、初めてしゃべったとき、幼稚園に入園したとき…。あの笑顔、うれしそうな表情を今も覚えています」

「小学生の時はアサガオ30鉢を育てていました。家で飼っていた猫を、自分の子供のようにかわいがっていました。動物、植物を愛して人と争うことを嫌い、友達の悩みには親身になって相談に乗る子供でした」

「結婚してからは私たち夫婦と2世帯で同居しました。家の2階のテラスではトマトやナス、サニーレタスを栽培し、私たちに分けてくれました。母の日には『いつまでも元気でいて』と、カーネーションを渡してくれました。その光景は今も夢に出てきますが、優しい言葉をかける前に消えてしまいます」

 息子との思い出を懐かしむ母の陳述が、まもなく山本被告に対する憎しみをあらわにしていく。

検察官「事件後、多くの教え子や職場の人に慰めの言葉をもらいました。子供のころと同じように、親身に人の相談に乗り、アドバイスをしていたと聞きました。今回の犯人に対しても、就職を世話したりしたということです。犯人が息子に感謝していたという話も聞きました。それなのになぜ…という気持ちです」

「息子のかたきすらとりたい、という気持ちです。私はキリスト教の信者ですが許す気になれません。現在77歳で、あと何年生きれるか分かりませんが、無念はいつまでも残るでしょう」

 裁判官、裁判員に厳罰を強く求め、意見陳述が締めくくられる。裁判員らは真剣な表情で耳を傾けている。

検察官「つたない文章ですが、息子の無念を裁判官、裁判員の皆さんに伝えるため、涙を流しながら一生懸命書きました。息子は刺されるとき、一生懸命抵抗しました。息子は犯人の顔を見ているでしょう。驚き、悔しかったでしょう。そして愛する家族のことを思ったでしょう。理不尽な犯人が何年かのち、自由に街を歩く姿を想像するのは、家族にとって恐怖以外の何物でもありません。どうか、孫たちを守ってください。本当にお願いします」

 山本被告は終始表情を変えず、まばたきを繰り返すだけで陳述を聞いていた。今崎裁判長はここで休廷を告げ、午後1時半に再開し、検察側による論告求刑が行われることを告げた。

⇒(5)「感謝されこそすれ、恨まれる理由何一つなかった」 犯行を厳しく非難する検察官