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(2)小室被告に猶予刑、裁判長「愚直に生きてほしい」

量刑理由の読み上げが続く。小室被告はまっすぐ前を見据えたまま、杉田裁判長の言葉に聞き入っている。

裁判長「本件詐欺は、その場しのぎの場当たり的犯行だった面はあったが、手口は著作権を悪用した狡猾(こうかつ)なものだ。自己のネームバリューを利用しており、音楽家としての矜持(きようじ)すらかなぐり捨てている。自己がこれまで創作し続けた歌の数々を詐欺の道具に用い、果ては被害男性の信頼を取り戻すために歌を作ってプレゼントするなどは、長きにわたり人の心を打つ歌の数々を世に送り出してきた被告人の振るまいとして、あまりに嘆かわしい」

杉田裁判長は今回の犯行について、かつては一世を風靡(ふうび)した小室被告だからこそなしえた犯行だと指摘し、「手練れの事業者だった被害男性を容易に錯誤に陥らせた」と述べた。

裁判長「今回の犯行を主導したのは共犯者であり、そこは考慮しなくてはならないが、それが被告人の責任を大きく軽減するものではない。5億円という被害金額は被害男性の資産規模がはっきりしないため、その意味や価値は推し量れないが、世間的にみれば大金をだまし取られている。被害男性は現在でも許し難い思いを抱いているが、無理はない。なお、被害男性はインターネットで誹謗(ひぼう)中傷をされたと訴えているが、被告人や関係者がどの程度関与しているのかは不明である」

続いて杉田裁判長は、小室被告について有利な事情を述べていく。

裁判長「被告人を師と仰ぐエイベックス・エンタテインメント社長の松浦勝人氏が、被告人になり代わり、慰謝料などを含めて総額6億4000万円を耳をそろえて支払っており、完璧(かんぺき)に被害弁償を終えていることは特筆すべきものがある。なお、被害男性は共犯者からも1億2000万円を支払いを受けており、総額2億5000万円もの慰謝料を得ている。松浦社長らは、いわばエイベックスが丸抱えで被告人を更生させることを誓約しており、被告人の将来の更生に大きな期待を抱かせるものがある」

このほか、小室被告に有利な事情として(1)真摯に反省している(2)被害男性に法廷で直接謝罪した(3)多大な社会的制裁を受けている(4)独立したプロデューサーとして草分け的存在で、音楽界に多大な貢献をした−ことを挙げた杉田裁判長。最後に、これらすべてのことを勘案した総合判断を述べた。

裁判長「被告人の刑事責任は重いが、すでに被害弁償を終えており、反省の態度を示している。嘆願書も寄せられ更生環境も整っている。以上の点から見ると、今、ただちに被告人を刑務所に送り込むことが、社会的な意義があるかどうかという議論になる」

いよいよ、量刑が言い渡される。静まりかえる法廷。小室被告はまっすぐ前を見て直立不動のままだ。

裁判長「主文。被告人を懲役3年に処する。この判決確定の日から5年間、刑の執行を猶予する」

刑の執行を猶予する判決が出た。残っていた報道陣が次々と法廷を飛び出す。小室被告は身じろぎせず正面を向いたまま。求めていた猶予刑が出た瞬間、どのような思いが胸に去来したのか。小室被告の表情からは読み取れない。

裁判長「執行猶予とは、5年間あなたの更生を見守るということです。二度とこういう、ばかなことをしないようにしてください。すべてを判決文に書き尽くしているので、新たに付け加えることはありませんが、初心に立ち返って愚直に生きてほしい。それでは被告人は退廷してください」

小室被告は、杉田裁判長の一言一言に、小さく小刻みにうなずいた。傍聴席に向かって軽く一礼し、退廷する小室被告。扉の前まで進むと振り返り、あらためて裁判官に深く頭を下げ、法廷を後にした。

⇒小室被告記者会見(1)「ファンを裏切り本当に自分が情けない」