(1)裁判長「その場しのぎの、あからさまな詐欺の犯行」
音楽著作権の譲渡を個人投資家の男性に持ちかけて5億円をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた音楽プロデューサー、小室哲哉被告(50)の判決公判が11日午前9時45分、大阪地裁(杉田宗久裁判長)で始まった。
「(被害男性に対し)債務を履行し、真摯(しんし)に反省している」とした上で、音楽業界での業績や社会貢献活動を挙げて執行猶予付きの判決を求めた弁護側。一方の検察側は「無計画に借金を重ねながら浪費を続け、それを犯罪で補おうとした。著名人の地位を利用したもので狡猾」と懲役5年を求刑した。実刑判決もありえる重い求刑だけに、裁判所の下す判断が注目される。最終意見陳述で「心から反省している。音楽を糧に、もう一度立ち直りたい」と語った小室被告は、どんな心境で判決の瞬間を迎えたのだろうか。
午前9時45分すぎ、大阪地裁201号法廷。満員に埋まった傍聴席の視線は、入廷した小室被告にいっせいに向けられた。やや緊張した様子で一礼し、いつも通りに弁護人の隣に着席しようとしたところ、杉田裁判長から「被告人は前に来てください」と証言台の前に出るよう促された。証言席の前に進み出た小室被告。両手を下ろし、直立不動で判決を聞こうとしたが…。
裁判長「それでは被告人に対する詐欺事件について判決を述べます。被告人は有罪」
ひと呼吸おいて、裁判所が認定した事実について述べ始める杉田裁判長。どうやら注目の量刑の言い渡しは、後回しにするようだ。戸惑ったように次々と法廷を飛び出す報道陣。小室被告も量刑の言い渡しを予想していたのか、軽くうなずくだけで裁判長の言葉を待った。裁判所の事実認定を述べていく杉田裁判長。
裁判長「(1)として、本当は806曲の著作権のほとんどを二重譲渡していたのに、あたかも自分がすべての著作権を所有していたと装った。(2)として、本当は著作権使用料分配金が前妻に差し押さえられており、それを解除する意思も能力もなく借金の返済に充てるのに、被害男性から受領した後に前妻に納付し、差し押さえを解除すると装い、次の通りにウソを言った」
自らの言動を「虚偽」だと認定された小室被告。気をつけの姿勢で指先まで伸ばし、微動だにせず判決に耳を傾けている。続いて小室被告の「ウソ」が詳述される。
裁判長「平成18年7月30日ごろ、被害男性に対し『すべての著作権を10億円で買ってほしい。僕は出版社からインディペンデントしてます。過去の作曲がフルセットになっているのに意味があるし価値がある。買ってもらえれば差し押さえを解除してもらいます』とウソを言い、次いで8月7日ごろには、『差し押さえを解除するために先に5億円が必要なんです』とウソをついた」
小室被告の「ウソ」を描写した裁判所。弁護人は時折、小室被告の表情をのぞき込みながら、判決内容のメモをとり続けている。
裁判長「結果、被害男性は806曲の譲渡の一部として、9日ごろに1億5000万円、29日ごろに3億5000万円を共犯者の経営する会社の普通口座に振り込んだ」
続いて量刑の理由に言及する杉田裁判長。やはり量刑は裁判の最後に告げられるようだ。
裁判長「小室被告は日本を代表する音楽プロデューサーだが、平成13年にレコード会社との専属契約を解約して前受け金の返還を余儀なくされたことを転機として、次第に資金繰りに困り、投資の失敗や慰謝料の支払いなどで巨額の負債を抱え、ノンバンクにも借り入れるなど、いよいよ困窮してきた」
経済的に追いつめられたことが原因の一つとする杉田裁判長。しかし、その動機については厳しく指弾した。
裁判長「その場しのぎのあからさまな詐欺の犯行に至った。経緯をみると、不幸な事情も重なり周囲に助言してくれる者がいないなど、気の毒と思う部分もなくもない。しかし、計画性のない資金繰りを繰り返し、平成14年に結婚した妻へ対する身勝手な見栄から、豪奢な生活も続けていた。総じて見れば、犯行に至る経緯や動機をみても、多くの酌むべきものを見いだすことは困難である」