(3)「白い服の男が走り抜けた」状況語る証人、被告は正面から見すえ…

1人目の目撃者男性の証言が終了した。加藤智大(ともひろ)被告(27)は軽く両手をひざの上で組み、うつろな目でまっすぐ前を見据えたままだ。
証言を終了した男性が必要書類に記名する手続きをするが、待合室に捺印(なついん)用の印鑑を忘れたため、係員が取りに行く間、約10分の空白が続いた。
加藤被告はときおり、ほおをかいたり、口元に手をやるなど、少し落ち着かない様子だ。
係員が戻って、ようやく手続きが終わり、目撃者男性が退廷。2人目の目撃者は遮蔽(しゃへい)が必要ないということで、衝立が取り払われた後、新しい若い男性が入廷する。次の証人のようだ。
ここで加藤被告は後の弁護人に声をかけ、証人を真正面に見ることができる位置に席をずらした。加藤被告は上目使いにまっすぐ証人を見据える。
裁判長「ウソの証言をすると、虚偽罪に問われることがあります。証言は簡潔に述べてください」
証人「分かりました」
村山裁判長が声をかける。男性の証人は、加藤被告の視線も気にすることなく、法廷に通るはっきりとした声で答えた。検察官の質問が始まる。
検察官「平成20年6月8日の事件当日、なぜ秋葉原にいましたか」
証人「買い物に秋葉原に行きました」
検察官「当時、どこに向かっていましたか」
証人「上野方面から歩いて(大型パソコン店)ソフマップの角を曲がったところでした」
検察官「どの位置にいたか、地図に記してください」
大型スクリーンに秋葉原の交差点を拡大した地図が映し出された。証人は検察官の指示に従って手元の地図に「ア」と記し、丸で囲った。ちょうど中央通りを南に向かって歩き、左折した位置だ。
検察官「どんなことを見聞きしましたか」
証人「音楽プレーヤーをヘッドホンで聞いていたのですが、それでもドンドンという大きな音が聞こえ、振り向くと、横をトラックが通りました。何人かが倒れていて、さっきの音は人がはねられた音だったと思いました」
検察官「トラックの位置を書いてもらえますか」
証人は地図に「ト」とトラックの位置を記した。そこはまさに証人の真横、ぶつかっていてもおかしくない位置だった。
検察官「トラックの前の方は見ましたか」
証人「フロントガラスがクモの巣を張ったように筋状に割れていました。バンパーがへこんでいました」
検察官「乗車していた人を見ましたか」
証人「眼鏡をかけた男性が運転しているのをはっきり見ました」
検察官「トラックはその後どうなりましたか」
証人「しばらく進んで交番あたりで止まりました」
検察官「倒れていた人の位置を書いてもらえますか」
証人は、地図上の証人がいた位置のすぐそばの交差点上に倒れた2人分の位置を書き記す。
検察官「2人の様子はどうでしたか」
証人「1人は服がめくれ上がって本当にひどい状態で、動きは全くありませんでした。若い人だったと思います」
検察官「もう1人は?」
証人「少し離れていたのではっきりは見ませんでしたが、もう動かない状態でした」
検察官「何が起きたと思いましたか」
証人「ひどい事故が起きたと思いました」
検察官「そのとき何をしましたか」
証人「ただ、茫然(ぼうぜん)と見ていました」
検察官「その後どんなことが起きましたか」
証人「倒れた方の介護や蘇生(そせい)処置をしている方がいましたが、僕の横を白い服の男性が走り抜けていきました」
検察官「どんな男でしたか」
証人「眼鏡をかけ、白っぽい服を着ていました。トラックの運転手がひいた人の介護のために来たと思いました」
再び、検察官に求められて証人は地図上に男が通り過ぎた位置を記す。さきほどのトラックの位置と証人が立っていた場所の間。まさに真横を通り過ぎたことになる。
検察官「その後、男はどうしましたか」
証人「倒れた人を救護していた方にぶつかっていったように見えました」
検察官「何をしていると思いましたか」
証人「最初はよく分かりませんでした。何だろうと思いました」
加藤被告は上目づかいに証言を続ける男性を見据え続けている。落ち着かないのか、耳に手をあてた。
証人は、検察官にうながされて男がぶつかっていった人々の位置を地図上に記す。全部で3人だ。
検察官「それぞれどんな人でしたか」
証人「1人は警察官で、事故後の交通整理をしているようでした。1人はタクシーから降りてきた運転手でした」
検察官「ぶつかった男は何をしましたか」
証人「警察官にぶつかって何か刺している感じで、すぐに警察官が倒れました」
検察官「ぶつかるとき、男はどんな様子でしたか」
証人「走りながら手を突き出す感じ」
検察官「倒れた方はどうなりましたか」
証人「警察官はちょっと移動して倒れました。崩れるというか、しゃがんだ感じでした」
じっと男性に視線を送り続ける加藤被告。男性は動じる様子もなく、はっきり落ち着いた声で凄惨(せいさん)な事件現場の証言を続けていく。