(2)「ヤケかと思ったが、殺気を感じ…」事件当時の恐怖語る目撃者

加藤智大(ともひろ)被告(27)が通行人を刺していく現場を目撃した男性の証人尋問が続いている。ここで検察官は「事件当時の話はここまで」と告げた。
事件直後、胸を刺されていた男性に対して、止血処置をするなど、救護措置をとっていたという証人。検察官は、救護した男性に関する質問を始めた。
検察官「あなたは救護した男性がその後、どうなったか知っていますか」
証人「はい。知っています。亡くなってしまいました」
検察官「それは報道か何かで知ったのですか」
証人「はい。そうです」
検察官「どんな気持ちになりましたか」
証人「すごく自分の無力さを感じて…」
証人はそれまで、はっきりとした口調で淡々と証言していたが、自分が救護した男性の死について語り始めたとたん、言葉の端々に悔しさをにじませ始めた。
検察官「どうして、そういう気持ちになったのですか」
証人「倒れている人を助けられず…。もっと早く(犯人を)止めに入れたんじゃないかと後悔しています」
検察官「犯人に対してはどういう気持ちですか」
証人「すごく憤りを感じています。ほかにも倒れている人がたくさんいて…。自分自身もすごく精神的に辛くて、犯人に対しては、すべて明らかにしてもらって、極刑を望みます」
加藤被告への怒りを一気に述べた証人。加藤被告は相変わらず背中を丸め、表情を変えず目の前の長机に置いてあるノートを見つめ続けている。
ここから検察官は、事件当時の現場写真を証人に示し、一つ一つ確認を取り始めた。加藤被告は、おもむろに目の前のノートを開き、後ろに座る女性弁護人にノートを示しながら一言二言問いかけている。女性弁護人から何か言われ、納得したようだ。
検察官「甲135号証添付の写真の写しを示します。地面に倒れている男性に見覚えはありますか」
証人「あります。私が救護活動した男性です」
遮蔽(しゃへい)用の衝立で傍聴席からは見えないが、検察官は次々と現場写真を示し、確認を取っていく。
検察官「最後に甲132号証添付の写真の写しを示します。こちらの写真には傷口が写っていますが、見覚えがありますか」
証人「あります」
検察官「検察官からの質問は以上です」
村山浩昭裁判長が「弁護人の方どうぞ」と告げ、弁護人質問に移った。弁護人は事件発生直後の様子から質問していく。
弁護人「食事をした後、(事件直前に)友人と北の方から(現場の交差点を)渡っていたということですね」
証人「そうです」
弁護人「北からどう渡ったんですか」
証人「歩行者天国になっていたので、中央を2人で渡っていました」
弁護人「信号は青だったんですか」
証人「そうです。最後に青と確認してから渡りました」
弁護人「交差点で気付いたことはありますか」
証人「マル2の地点に車がありました」
証人は法廷の両サイドに設置された大型モニターに映し出された現場の見取り図を、ボールペンで指し示しながら証言する。
弁護人「どういった車ですか」
証人「ワゴン車みたいな車です」
弁護人「交差点を渡り終えたところで、衝突する音を聞いたということですね?」
証人「はい。そうです」
ここで村山裁判長が「ちょっと待ってください」と質問を遮った。書記官が交代したようだ。
弁護人「(衝突する音が聞こえた後)交差点に近づいて、2人が倒れているのを見たということですね?」
証人「はい」
弁護人「その後、犯人が走ってくるのを見たということですが、横断歩道がある手前から見たのですか、それとも途中から?」
証人「途中だったと思います」
弁護人「犯人は声を上げていたということですが、どう思いましたか」
証人「最初はすごいヤケになっているのかと思いましたが、聞いているうちに殺気を帯びているように感じました」
弁護人「犯人の表情を見ましたか」
証人「見ました。目が血走っているように見えました」
それまで身じろぎもしなかった加藤被告は、鼻を少しかくようなしぐさを見せた。弁護人はパニック状態に陥った事件現場の情景について確認していく。
弁護人「警察官の方にぶつかるまでのことですが、別の方にぶつかったりしたのを見たことはないですか」
証人「はい」
弁護人「見ていたのは(見取り図に記された)『い』の地点ですか」
証人「このときは少し後ろに下がっていました。『い』より少し後ろ…」
弁護人「周りの様子はどうでしたか」
証人「クモの子を散らすように逃げていきました」
弁護人「ご自身以外に見ていた人はいますか」
証人「はい」
弁護人「どのくらいの人が見ていましたか」
証人「そこまでは分かりません」
弁護人「先頭で見ていたのですか。前にいたと?」
証人「自分は先頭の方にいました」
弁護人「前に人はいましたか」
証人「ほとんどいなかったと思います」
ここで、弁護人の質問が終了した。加藤被告は、目の前のノートを開き、はさんであったA4大の一枚紙を開いて目を通した以外は、表情を変えず一点を見つめたままだ。