(3)2時間20分後に“完オチ”「自首は成立せず」と認定
裁判長は、咲被告の犯行の計画性について読み上げを始めた。咲被告の様子は変わらず、うつむき加減で背中を丸めている。
裁判長「咲被告は犯行前、指紋がつかないように軍手や金づちを購入し、また自分の家にあるひもは色が付いていて目立つため、紙ひもも調達し、切れないように三つ編みにした」
「(犯行当日の午前中に)スーパーで購入した食料をトランクに入れて、夫へのメールで偽装工作し、夫の前でたった今、購入してきたかのようなそぶりをした」
弁護人は落ち着いた様子でメモをとり続ける。
裁判長「絵理子さんの頭部には多数の挫創や擦過傷、頸部には複数の刺創がある。金づちで殴打してひもで締めたうえ、わざわざ包丁までも持ち出して複数回刺した。咲被告は、『ひもでしめたが絵理子さんがまだ動いていたため、命を取り留められたらまずい、殺害しないといけないと考えた』と供述している」
「また、玄関ドアには錠が2カ所あり、両方のサムターンには血痕があった。そして遺体発見時には施錠されていた。咲被告は『誰かに見つかったらまずいと思い、犯行途中に施錠した』と供述している。また、犯行後、部屋の窓から逃走したことについて『玄関から逃げると誰かにみつかるとまずい』と供述している。これらから、咲被告は確定的殺意をもって犯行に及び、犯行が発覚しないように合理的、合目的な行動をとったといえる」
「咲被告は犯行後、夫にスーパーにいくようなメールを送ったり、汚れた洋服を着替え、衣類や靴、金づちを投棄したり、自宅の発見しづらい場所に移動したりした。これらは犯行が発覚しないようにするためにとった行動といえる」
隠滅工作を指摘し終わり、裁判長の読み上げは弁護側の主張する犯行前後の責任能力についての判断に移った。弁護人が主張する心神喪失、心神耗弱をきっぱり否定する。
裁判長「結論であるが、咲被告に精神疾患の罹患は認められない。犯行動機も了解可能で計画性、合理性がある。犯行前後には証拠隠滅工作をしている。精神障害には罹患(りかん)しておらず、自己の制御能力も減退していなかった。弁護人のいう心神耗弱、心神喪失の主張は採用できない」
裁判長は続けて弁護側の主張する『自首』について読み上げを始めた。果たして警察で聴取され、“落ちた”のか、自ら犯行を自白する意思があったのか−。
裁判長「茅野警察署の○○巡査(実名)の供述により、咲被告は犯行翌日の11月8日、絵理子さんの関係者として茅野署に呼び出され聴取を受けた。当初、咲被告は聴取に対し、『犯人は分からないの?』などと答えていた」
「しかし、○○巡査は咲被告と絵理子さんの不仲を聞いており、上司から殺害の動機はあると指示されていた。そして○○巡査がアリバイを確認すると、昨日のことを聞いているのに一週間前のことを答えたりするなど、供述に一貫性を欠いた。また、視線が天井や壁にさまようなど不審な点があった。○○巡査は午後2時ごろから、『犯人ではないか』という心証を抱いくようになった」
「○○巡査が供述の矛盾を追及したり、同情的な話をして本当のことをいうように促した。午後4時ごろ、咲被告はうつむき加減になり、上半身を前後に激しく揺すり、20分間くらい黙ったあと犯行を自供した」
自首の認定について結論が出る。
裁判長「○○巡査が、咲被告が犯人ではないかとの心証を抱いてから、2時間20分後に犯行を自供した。これは早期の取り調べに単に自供しただけであって、自首は成立しない」
責任能力、自首の2点について、弁護側の主張は完全に退けられた。読み上げは量刑の理由に移る。
裁判長「咲被告は、絵理子さんを包丁で複数回突き刺すなどし失血死させた。仮に絵理子さんの嫌がらせがあったとしても、命まで奪うのは安易かつ短絡的。自己中心的で、酌量の余地はない」
「無抵抗の絵理子さんに頭蓋骨(ずがいこつ)の陥没や30カ所の挫創や打撲、頸部には7つの刺創を負わせている。犯行は強力かつ執拗(しつよう)で、強固な確定的殺意をもって計画的に犯行に及んだ。犯行後には夫を利用してアリバイ工作をするなど隠滅を図っており、犯情は悪い」
遺族らの処罰感情について説明を始めた。
裁判長「絵理子さんは勤務態度は明るく、利用者からも信頼されていた。死に至るまでの肉体的苦痛と絶望感は筆舌に尽くしがたい」
「絵理子さんの実母は長女を奪われただけではなく、本当の娘同様に思っていた咲被告が犯人だったことに大変驚いている」
「咲被告の夫も、酌量は求めているものの、『妹を殺害するとは夢にも思わなかった。憤りを覚えている』と言っている」