(3)「頸部圧迫3分以上…明確な殺意」 動機は「発覚を恐れたため」
英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われ、無期懲役を言い渡された無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の判決公判。堀田真哉裁判長が判決理由の読み上げを続けている。市橋被告は微動だにせず正面を見つめている。
リンゼイさんが市橋被告の部屋を訪ねたときに何があったのか、堀田裁判長は一つ一つ、検察側と弁護側の主張を確認しながら、証拠や証人の証言を基に事実認定の説明をしていく。
裁判長「頸部(けいぶ)圧迫について、証拠によれば、頸部圧迫は明らかであり、リンゼイさんは顔面や体に多数のけがを負っていた。リンゼイさんの抵抗があったと常識的に考えられる」
弁護側は、市橋被告が逃げようとしたリンゼイさんの抵抗を抑えようとした結果、偶発的に首を絞めてリンゼイさんを死なせたと主張している。
裁判長「証人(遺体を司法解剖した女性鑑定医)はリンゼイさんが死に至るまでには、数分以上の圧迫が必要で、頸部圧迫の痕は複数回なかったと証言している。リンゼイさんが部屋に入って間もない状況で殺害されたと考えるよりは、多数の粘着テープ片や(輪になった)結束バンドが見つかっていることから、強姦の後で、何回も(粘着テープ片や輪になった結束バンドを)作り、使用できる、強姦できる状況があったと考えられる。リンゼイさんが部屋に入ってから、(リンゼイさんが)比較的長い時間を生きていたと考えるのは合理的である」
弁護側は強姦致死罪について、強姦から死亡までの時間が開いているため成立しないとして、検察側の主張に反論している。
裁判長「そして(弁護側は)市橋被告はリンゼイさんを強姦するときに首を絞めてはいないと言っている」
市橋被告はリンゼイさん殺害について、寝て起きたらリンゼイさんが拘束を解いていて、市橋被告に殴りかかって逃げようとしたので、必死に抵抗を抑えこんでいたら、リンゼイさんが動かなくなったと証言している。
裁判長「リンゼイさんが3月26日の午前2時から3時くらいまで生きていたとする弁護側の主張は、複数の粘着テープ片や結束バンドが発見されていること、『ワルファリン』などの用語を(25日)午後11時半から(26日)午前0時半まで調べていたということと矛盾しない」
「ワルファリン」は市橋被告がリンゼイさんの求めに応じて、パソコンで検索していたとされるリンゼイさんの持病の薬だ。
裁判長「リンゼイさんの遺体発見状況を考えると、強姦の際に、市橋被告が頸部を圧迫していないという主張と矛盾しない」
「以上、前述をまとめると、市橋被告はリンゼイさんが部屋に入って間もなく、右目の周りなどにかなり強い力を加え、粘着テープや結束バンドで拘束、強姦した」
強姦時の事実認定の説明を終えた堀田裁判長は、続いて殺意の有無についての理由を述べていく。
裁判長「女性鑑定医は、頸部圧迫を3分以上続けないと、死には至らないと証言している。気管など首を絞めるとリンゼイさんが死ぬということは、市橋被告は十分認識できたと考えられる」
「市橋被告は『大声を出しながら逃げるリンゼイさんを止めようとした』『感覚的には1分間』などと供述している。しかし、女性鑑定医によると、そのようなことでは窒息死には至らない」
堀田裁判長は、市橋被告の供述は信用できないとした上で、リンゼイさんの首の輪状軟骨が折れていたことなどから、相当程度の強い力が3分間以上掛かっていたとされると付け加え、こう結論づけた。
裁判長「少なくとも3分以上、市橋被告には明確な殺意があったと認定される」
続いて、堀田裁判長は市橋被告のリンゼイさん殺害の動機について説明していく。
裁判長「市橋被告はリンゼイさんを強姦し、拘束して相当の時間とどめておいた。そして、強姦が発覚しないよう、対応に窮していた。そういう時に、リンゼイさんが大声をあげて逃げ出そうとしたことで、他の住人にばれるのではないかと考えた市橋被告には殺害の動機があった」
リンゼイさんの父、ウィリアムさんは市橋被告をにらみつけている。市橋被告は正面を向いたままだ。