(5)「刑事さんの推理、参考に聞いた」勇貴被告が弁護人に明かす
「被告人も記憶していないことがなぜ調書になっているでしょうか」−。供述調書の信頼性を崩そうと、弁護側の主張は続く。勇貴被告は身じろぎをせず、じっと虚空を見つめたままだ。
弁護人「(事件当時の記憶があいまいな)被告は(平成18年)12月31日に、自分の部屋に死体の一部があることに気づく。殺人と遺体損壊の事実があったことは把握しつつも、思い出せない状況にあったと考えられる」
「1月4日に警察に同行され、事件について聴かれるが記憶がなく答えられない。なんとか説明しなければならない立場に立たさるが、覚えていないことは説明ができず、申し訳ないと思うようになった」
弁護側は取調室でのやりとりについて、勇貴被告から聞いた内容を丁寧な口調で読み上げる。以下はその内容だ。
弁護人「僕が納得していただける理由が考えられないと、次の日の宿題ということで部屋に帰らせてもらいました。どうしても思い出せず、捜査担当の刑事さんに参考として推理を聞くこともありました」
「捜査員が書いた調書について、ちょっと修正をしてくださいというと、捜査員は『分からないはずはない』といって、また堂々巡りになったので、『ま、こういうことだろう』と勝手に納得して、サインをしました」
弁護側は供述調書を「誘導されたもの」としたい考えだ。さらに弁護側は被告の“特殊性”についてもふれる。
弁護人「被告の場合は記憶と後で考えたこと(の区別)がはっきりしない。検察側は記憶がないと被告が嘘を言っているような言い方をしたが、むしろ自分の考えを変更することが難しい、苦手だということを認識してもらいたい」
さらに論点は、検察側が主張する死体損壊についての疑問点に及ぶ。
弁護人「検察側の主張では説明ができないことが多すぎる。たとえば、勇貴君は極度の潔癖性。その勇貴君が死体損壊をできるはずがない」
「素手で遺体を15個に解体し、内臓を取り出して洗う。通常でも考えにくいことを、潔癖症の勇貴君であればなおさら実行できたとは思えない。しかも、この際、ドキドキもハラハラもしなかったと話している。極めて異常で、勇貴君とは別の人格がやったとしか考えにくい」
弁護人は矢継ぎ早に疑問点を列挙する。
弁護人「12月30日夜、父が『亜澄はいるかな』と聞いた際にも、被告人は『いると思う』とおどおどした様子もなく平然と答え、夕食も平気で食べた」
「その晩も普通に寝て起きて、寝付きが悪いということもなく、亜澄さんの夢をみることもなかった」