(1)検察官「全く信用できない」と鑑定ソデ 「供述は詳細、具体的」と自信
妹の短大生、武藤亜澄さん=当時(20)=を自宅で殺害、切断したとして、殺人と死体損壊の罪に問われた次兄の元予備校生、勇貴被告(22)の論告求刑公判が、東京地裁(秋葉康弘裁判長)で始まった。
午後1時34分、地裁104号法廷に入廷した勇貴被告は、前回公判と同じように白いワイシャツの上に、Vネックの紺色のベストという姿。白い顔が印象的で、落ち着いているように見えるが、横に付き添う刑務官が指示するまで弁護人席の前のベンチに座らず、腰を浮かせていた。今回は6回目の公判で、検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論を経て、結審する予定だ。
精神鑑定を担当した東京女子大の牛島定信教授(精神医学)は第4回公判(3月24日)の鑑定人尋問で、「殺害時は心神耗弱、遺体損壊時は心神喪失状態だった」とする見解を明らかにしており、責任能力の有無が公判の最大の争点になっている。検察側は鑑定結果に不信感をあらわにし、再鑑定を請求したが裁判所は前回公判(4月21日)で却下。「裁判所は判断を誤っており、違法です」と猛反発した検察側には不満がくすぶっており、厳しい求刑を行うことも考えられる。
裁判長「今日は予定通り、論告をお聞きします」
裁判長が促すと、グレーのスーツ姿で短髪の男性検察官が立ち上がる。法廷後方にある時計をちらりと見た後、論告の読み上げを始めた。
検察官「それでは検察官の意見を述べます。はじめに事実関係を述べます」
検察官は起訴状や検察側の冒頭陳述に基づき、勇貴被告が亜澄さんを殺害し、包丁やノコギリでバラバラにしたとする犯行の状況を早口で述べていった。勇貴被告は法廷でも犯行自体は認めており、争いにはなっていない。
検察官「被告は公判段階で『動機は分からない』と述べ、弁護人も『人格障害から異常に反応したもので、バラバラにした動機は見出せない』として精神状態を争っている。牛島鑑定人も『殺人時は精神耗弱、死体損壊時は心神喪失』と結論づけました」
最も重要な争点となった精神状態に関する審理の経過をこう説明した後、「しかし」と力を込めた。
検察官「全く信用できません。問診時における信用性は全くありません。昭和59年7月3日の最高裁決定では、『動機や態様などを総合して、責任能力を判断すべき』と述べています。被告の動機は十分あったし、犯行は合理的で目的に沿っていました。証拠隠滅工作まで行っています」
予想通り、検察官は全面的に「牛島鑑定」を否定し、こう結論付けた。
検察官「責任能力を疑わせる事情は一切なく、責任能力があったことは明らかです」
検察官は「それをこれから明らかにします」と予告し、言葉を続けた。
検察官「捜査段階では、『妹が寒いと言ったので、かけていたタオルの端を持って交差し、180まで数え終わるまで絞め続けた』と具体的に詳細に供述しています」
「浴槽の場面についても、『途中で痙攣(けいれん)し、まるで妹が水を飲んでいるように感じた』と、体験した者でなければ分からない具体的な供述をしており、被告でしか語れない状況が多く含まれています」
さらに、捜査官の誘導があったことも否定する。
検察官「被告は『陰部には一切触れていない』などと、否定したいことは否定しており、捜査官の言いなりにはなっていません」