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(5)彩香ちゃんへの殺意は瞬間的

引き続き彩香ちゃん殺害時点に関する実行行為について、裁判長が判決文を読み上げる。

検察側は論告で彩香ちゃん殺害について、『長期間、彩香ちゃんに根深い嫌悪感を抱き、潜在的殺意を抱いていた』とし、『事件当日はいらだちが極限に達して大沢橋の欄干の上から彩香ちゃんの左肩を押して突き落とした』としていた。焦点はいつ殺意があったかということだ。

裁判長「捜査段間における被告の自白を総合すれば、彩香ちゃんに対する殺意とそれに基づく殺人の実行行為があったと認められる」

彩香ちゃん死亡は過失ではなく殺意があったとする裁判長。だが、一方で殺意がいつ芽生えたかについても言及する。

裁判長「確実な殺意を抱いていたのであれば、欄干に上るところで突き落とすこともできた。殺害に躊躇(ちゅうちょ)があったとも考えられる」

『魚がみたい』とせがんだ彩香ちゃんを欄干に乗せた時点では積極的な殺意がなかったと裁判長は計画性を否定。欄干に乗る直前に鈴香被告は彩香ちゃんに「乗らないなら帰るよ」と言っていた。裁判長はこの点についても補足した。

裁判長「欄干に上るように命じた時点で積極的な殺意を有していたと言えない」

鈴香被告は微動だにせず背筋を伸ばして裁判長のほうをじっとみつめている。傍聴席からは表情は読み取れない。

続いて彩香ちゃん殺害から豪憲君殺害に至るまでの経緯に移った。

裁判長「彩香ちゃんを大沢橋の欄干の上から払い落としたものの、大変なことをしてしまったとの後悔と驚愕(きょうがく)、恐怖の念にかられ、そのころから自分のやったことを信じられない、信じたくないという強い思いにとらわれ始めた」

鈴香被告は彩香ちゃん殺害後、事件、事故の両面で捜査をしていた警察に対し、事件として積極的に捜査するよう求めていた。

裁判長「彩香ちゃんの死亡が事故として処理されることが期待できる状況下で、犯行発覚につながりかねない危険な行動をとっていた」

なぜこうした行動をとったのか。裁判長は『記憶の抑圧』という言葉で表現した。

裁判長「記憶を抑圧して彩香ちゃんを探し、事件性を主張する言動をとるなかで抑圧が強化され、第三者の事件と思うようになった」

一見不可解な言動だが、精神医学的見地からみると合理的な言動であったという。

裁判長「急速に記憶を抑圧し始め、(彩香ちゃん事件2日後の)4月11日ごろには、彩香ちゃんを大沢橋の欄干から落下させた記憶はすぐには想起されない状態になっていたと認めるのが相当である」

⇒(6)「卑劣かつ残虐、執拗かつ冷酷」鈴香被告を糾弾