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(3)「母親の行動として理解できない」彩香ちゃん突き落とし

彩香ちゃん殺害時の状況について、裁判所が認定した犯罪事実の朗読が続く。鈴香被告は裁判長を真っすぐ見つめ、身じろぎすらしない。

殺害場所となった橋に彩香ちゃんを連れて行った経緯について、裁判所は鈴香被告がベッドで体を休めていたにもかかわらず、「魚を見に行きたい」という彩香ちゃんにイライラを募らせていたと認定。彩香ちゃん殺害の殺意を否認する鈴香被告だが、裁判所はひとつひとつの客観的状況から殺意を認定していく。

裁判長「被告は『魚が見えないから帰ろう』と言ったが彩香ちゃんは納得せず、『なんで駄々をこねるんだろう』と思った。(橋の欄干を指さし)『ここさ乗らないなら帰る』と言った」

「被告は彩香ちゃんの腰を支え、欄干に乗るのを助けた。彩香ちゃんの落下を防ぐような措置を講じなかった」

彩香ちゃん落下の状況を詳細に再現していく裁判長。だが、相変わらず鈴香被告に動きはない。

裁判長「被告は(恐怖から)抱きついてきた彩香ちゃんを左手で払うように落下させた。そのまま(橋の下を見るなどもせ)彩香ちゃんの安否を気遣わずに帰宅した」

裁判長は「母親として当然取るべき対応を取らなかった」ことを浮き彫りにし、そこから本件が偶発的な事故ではなかったことを明らかにしていく。

裁判長「被告は『家に帰らないなら欄干に乗せるよ』と言うべきなのに(まったく逆のことを言った)。生命身体に危険がある、極めて危険な場所に上らせた。彩香ちゃんが上るには相当な動作と時間が必要だが、被告は『危ないから止めろ』とも言っていない」

欄干の高さは地面から115・5センチ。彩香ちゃんの身長は134センチ。彩香ちゃんが自発的に上るとは思えず、裁判所はそれを止めようとしなかった鈴香被告の不自然さを厳しく非難した。

裁判長「落下事故を防ごうとする配慮をしておらず、娘の身を案じる親の行動としては理解できない」

続いて裁判所は、彩香ちゃんが恐怖のあまり鈴香被告に抱きつこうとした状況を説明する。

裁判長「いつ落ちるか分からない姿勢だった彩香ちゃんが恐怖で(母親に)抱きつこうとするのは容易に想像できる。(抱きつこうとした際)被告には彩香ちゃんの体重がかかっており、それを押し返すには相当な力がいる」

鈴香被告は彩香ちゃんと身体的な接触をするのが苦手だったと話しており、「彩香に触れられるのが恐ろしく、反射的に彩香を手で振り払った」と供述。だが、裁判所は「彩香ちゃんを振り落とすには意図的な力が必要だった」と認定した格好だ。

裁判所は彩香ちゃん落下後の鈴香被告の行動に対しても疑問を述べていく。

裁判長「被告は橋の上から川をのぞくなど、過失であれば当然やるべき救助活動をやっていない」

争点のひとつである落下事件後に鈴香被告が健忘に陥ったかについては、「記憶を失ったことは認定できない」と断定。その理由は「後述する」とした。

裁判長「(以上の理由から)殺意に基づいて落下させたことが推認できる」

裁判所は鈴香被告の殺意を認めた。

⇒(4)供述への抵抗は「表現上の問題だった」