(1)牧師ら出廷 歌織被告、教会でDVを相談
12月20日の初公判以降、5回目となる30日の公判は、被告人質問前に予定されている証人尋問の最終日となる。この日は弁護側証人として、歌織被告が夫婦生活などを相談していた牧師と、歌織被告の友人の計2人が出廷し、午前中に審理を終える予定となっている。
歌織被告は、前にボタンがついたハイネックのピンク色の上着に白いパンツ姿。今回も肩の下まで伸びた髪の毛をまっすぐに下ろしている。午前10時、1人目の証人として、恰幅(かっぷく)のいいスーツ姿の年配の男性が入ってくる。
弁護人「あなたは教会の牧師?」
証人「はい」
弁護人「どういった宗派?」
証人「一般分類ではプロテスタント」
弁護人「活動は?」
証人「礼拝が中心。聖書の解き明かしを主にしている」
弁護人「どういった人が来る?」
証人「何人(なんぴと)も差別はありません。志がある人なら老若男女」
出廷する証人によってはにらみつけるような仕草(しぐさ)もあったこれまでの歌織被告だが、穏やかな顔でやりとりを見守る。
弁護人「事件前に歌織被告を知っていた?」
証人「教会に来ていた」
弁護人「最初に来たのは?」
証人「記憶では平成17年7月の終わりごろ。日曜の礼拝に来た」
弁護人「飛び込みで?」
証人「その言葉がふさわしいか分からないが、初めての人は色々な事情で来る。珍しいことではない」
弁護人「歌織被告は1人だった?」
証人「(殺害された歌織被告の夫の)祐輔さんと一緒だった」
弁護人「何か話をした?」
証人「時間より早く来たので、歓迎の意を表明し、2、3言会話した。疑問があったら尋ねてほしいという趣旨」
弁護人「その後は?」
証人「半年間にわたり、毎週ではないが来た」
弁護人「祐輔さんも?」
証人「一緒だった」
弁護人「2回目に来たのは?」
証人「8月半ば。祐輔さんも一緒だった」
弁護人「歌織被告から何か頼まれた?」
証人「洗礼志願があった」
弁護人「洗礼にはどういう意味合いがある?」
証人「色々あるが、私は一般に3つの要素があると話している」
『申し上げますか?』と確認後、証人は『結婚、葬式、誕生』という洗礼の3つの要素を簡潔に述べた。
弁護人「洗礼を頼まれてどう対応した?」
証人「教会に来て間もない人は洗礼の意味を深く知らない人が多い。『改めていらっしゃい』と言った」
弁護人「祐輔さんも洗礼を希望していた?」
証人「否定も肯定もせず、口元をゆるめた程度の反応だった」
歌織被告はハンカチを口に当てる。動揺しているようだ。
弁護人「その後、歌織被告から連絡があった?」
証人「しばらく経ち、電話で『会いたい、話を聞いてほしい』と言うので会った」
弁護人「いつ?」
証人「事件の1年前」
弁護人「17年12月12日?」
証人「はい」
弁護人「日曜か?」
証人「月曜だった。教会別室で会った」
弁護人「どんな話だった?」
証人「詳細は記憶がないが、結婚の継続か別れるかという問題で迷っていた」
弁護人「祐輔さんのことを言っていた?」
証人「家庭内暴力のことは聞いた」
弁護人「家庭内暴力に詳しい?」
証人「メンバーからも多少、家庭内暴力のことを見聞きすることがある。普通の人よりよく知っていると思う」
弁護人「どういう人がやる?」
証人「愛し方、愛され方がよく分からない人に起こると思う。まじめで社会的にも信用され、後で謝って『2度とやらない』と誓うが、繰り返すタイプは珍しくない」
なぜか、牧師が『家庭内暴力の権威』であるかのように見解を求める弁護側。河本雅也裁判長は、『(証言ではなく)証人の意見に近い。重要なことを聞かないと』としびれを切らせて修正する。
弁護人「暴力の詳しい内容を聞いた?」
証人「具体的に聞いていない」
弁護人「歌織被告はどういう様子だった?」
証人「絶えずうつむき加減で、深刻に悩んでいる様子だった」