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(4)中毒から死亡まで「数十分」と専門医 「致死量超えても…」とも証言

合成麻薬MDMAを一緒に服用し、容体が急変した飲食店店員、田中香織さん=当時(30)=を放置し、死亡させたとして保護責任者遺棄致死などの罪に問われている元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判の第5回公判が続く。昭和大学病院の救命救急センター長を務める医師が証人尋問を受けており、医学的な所見について男性検察官が質問を行っている。

医師は、仮に医者の前で、患者の体の全身に血液が送れなくなる心臓の症状「心室細動」が起こった場合、AED(自動体外式除細動器)などを使用して電気的な刺激を与えた際の除細動の成功率について答えている。

証人「先ほど成功率は9割方オーケーと言った。しかし、心臓に責任があるわけではないので、体の状況を整えながら、除細動器を使えば、心細動を制御できるだろうと考えます」

検察官「心室細動が再び起こっても、除細動器を使用しますか」

証人「そうです。だから集中治療室で処置を行います」

検察官「除細動器で心室細動が回復しなかったらどうするのでしょうか」

証人「心臓は体に血液を送るためのポンプの役割を果たしています。十分にポンプの役割を果たしてもらうため、胸全体の圧力の問題があるとはいえ、心臓マッサージを行います。心臓に血液が戻るように押し出す方法もあります。病院では人工心肺を使い、体の血圧を維持し、血液を体に回します」

複数の裁判員が下を向いてメモを取りながら医師の専門的な証言を聞いている。医学的な証言を理解するのに苦労しているような厳しい表情もうかがえる。

検察官「救急隊員の前で心室細動が起きなくても、病院へ戻ったときに発生した場合の救命可能性はどうでしょうか」

証人「薬物が体からひいてしまえば塩がひくような感じになります。例えば脳の病気では、心室細動で制御ができたとしても元に戻ることはありません。脳死の状態であり、救命の可能性はないでしょう。しかし病院で心室細動が起きた場合ですと、かなり高い確率で救命できます。(田中さんは)若い女性なので9割方助かるのではないでしょうか」

検察官「仮に救急隊員の前で心室細動が起きれば、AEDは使用するのですか」

証人「使う間もなく搬送となれば搬送します。あとは心臓マッサージです。心臓マッサージは大したことないと思われがちですが、状況によっては長い時間行います。マッサージしているときは意識があるのに、止めれば話ができなくなるといったこともあります。きちんとやれば効果は高いのです。救急隊は血流が維持された段階で搬送するだろうと考えます」

押尾被告は時折、裁判員の表情に目を移しながら、前方の証人を見つめている。

検察官「MDMAを服用し、中毒が起きてから数分から10分程度で亡くなることはあるでしょうか」

証人「そういうスピードではないでしょう。青、オレンジ、緑、黄色。血液の濃度によって症状が起こりますが、脳は階段を昇るように悪くなります。数分を階段に置き換えると、ピョンピョンとウサギ跳びのように階段を昇るようなものです。おそらく階段を昇るための1つのプロセスでは、5〜10分程度の時間がかかります。どんなに考えても数十分かかると考えるでしょう」

検察官の尋問が終了し、男性弁護人が医師に質問を始めた。

弁護人「(田中さんの)血中のMDMA濃度が高かったことはご存じですか」

証人「致死量を超えているとのことです」

弁護人「一般的な致死量はどの程度だと考えておられますか」

証人「それは個別具体的で専門的なことなので分かりません」

弁護人「これまでにもMDMA服用による死亡例はあります。この際の血中濃度は?」

証人「個別具体的なことは分かりません」

弁護人「鑑定によると、血中1ミリリットルあたり15・1マイクログラムのMDMAが含まれておりましたが、これは数値として高いのでしょうか?」

証人「鑑定ならばその通りでしょうが、致死量を超えたからといって必ず死ぬわけではありません」

医師は、少し考えるような素振りを見せた。裁判員らに対し分かりやすく説明しようと努めているようだ。

証人「致死量とは死亡者の血中濃度を集めて、ある程度調べたデータです。ただ(血中濃度が)非常に高いと思ったことは間違いありません」

⇒(5)もうろうとした中、被害者が発した言葉は…「あー、マーくんごめんね」