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(11)証人の検事にらみ続ける被告 取り調べには供述翻し「俺も被害者だ!」

保護責任者遺棄致死などの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判第5回公判は、休廷をはさみ、押尾被告を最初に取り調べた男性検事の証人尋問から始まった。焦点は合成麻薬MDMAを服用して深刻な急性中毒症状を発症した田中香織さん=当時(30)=が死亡した時刻についての供述内容の変遷だ。

押尾被告は検察官の尋問が始まる前からノートに何かメモを取る。男性検察官は証言台に立った男性検事の経歴や押尾被告の取り調べに至った経緯を質問した。

検察官「最初に(押尾被告の)取り調べを行ったのは?」

証人「昨年8月に、MDMAの使用で起訴された直後です。死亡の事実については参考人という形で聞きました」

検察官「具体的な供述は?」

証人「MDMAを飲んで2回セックスして、直後におかしくなった。ハングルのような言葉を言うようになり、最終的に高まって『エクソシスト』みたいなすごい状況になったと言っていました」

検察官「昨年8月の段階からエクソシストという言葉は押尾被告が使っていた?」

証人「そうです」

検察官「死亡時刻については?」

証人「(押尾被告の元マネジャー)△△(法廷では実名)が来る5〜10分前の7時40分ごろに亡くなったと言っていました」

男性検察官は、証人の男性検事がその後、今年1月まで取り調べを行っていないことなど経緯を確かめた。

押尾被告はメモを取り、隣の弁護士などとやり取りを繰り返す。

検察官「送致事実などについて認否を確認したと思いますが、どういうことを言っていましたか」

証人「覚えているのは開口一番に、まるで丸暗記していたことをはき出すように『6時からエクソシスト状態になって、15分ごろ急死したから助けられなかった』などとまくしたてられたことです」

検察官「午後6時15分に急死した根拠については、なんと言っていましたか」

証人「午後5時12分に妻にメールした後、2度目のセックスを30分ぐらいして、少し休憩しておかしくなった。30分ぐらいして亡くなった。その時間経過から考えると午後6時15分ということでした」

検察官「おかしくなって死んだ。その30分という根拠は?」

証人「30分でしたと言うだけです。ただ、最終的には、6時20分ぐらいに変わりました」

検察官「なぜ?」

証人「少し休んだりした時間分、少しずつずれるのではないかと聞いたところ、押尾被告は『5〜10分も休んでいない。2、3分』と言っていたので、それらを勘案して20分ということになりました」

検察官「昨年8月の取り調べのときと死亡時刻が違います。そのあたりの説明は?」

証人「押尾被告は『(事件発覚)当時から弁護人には伝えていたが、死体遺棄罪になってしまうと言われ、まずいと思った。でも本当のことを言わなければならないと思った』と言っていました」

検察官「田中さんの容体の変化については何か主張は変わりましたか?」

証人「特に変わっていません」

押尾被告はしきりにノートにメモを取り、横や後ろに座っている弁護士にそれらをみせる。

検察官「供述に関しての印象は?」

証人「田中さんの容体については非常に細かく提示してきた。リアルでおよそ作り話はないと思われました。死亡時刻について変わった理由はおよそ信じられないものでしたが」

検察官「供述内容はそのまま記載しましたか」

証人「はい。署名もしましたし、押尾被告が抵抗したこともありませんでした」

男性検察官は取り調べが正当に行われたか確認の質問を続ける。

検察官「勾留(こうりゅう)質問調書を見たときに何か気づいた点は?」

証人「死亡時刻は6時20分と話していたはずなのに、6時15分になっていた。話がまた元に戻っていて、丸暗記しかないんだなと感じました」

検察官「取り調べでの押尾被告の態度は?」

証人「普通に積極的に答えてくれていました」

男性検事は、供述調書の署名をめぐり、事前に弁護士との相談を容認したことや、取り調べの状況などを説明し、不利な状況をつくっていないことを説明する。

検察官「供述調書を取る段階で直してほしいと頼まれ、調書内容を変えた部分はありますか」

証人「(今年)1月14日。事件当日の調書について、田中さんが持ってきたMDMAの効き目が強かったと主張し、効果について、『この世に2人しかいないと思った。ずっと愛し合いたいように感じた』と言っていたが、途中で、『ずっと愛し合いたい』は今考えるとちょっと違うというので、変えました」

検察官「田中さんのことを『昆虫』だとか言う不当な発言はありましたか」

証人「押尾被告が『おれも被害者だ!』と強く言っていました」

押尾被告はメモを取るのをやめ、証人をにらみ始める。

検察官「担当検事の機嫌をうかがうようなことは?」

証人「押尾被告はその場にいない人を悪く言う。例えば、前の担当検事や自分の弁護士の悪口を言って、私のことを持ち上げようとしていました」

押尾被告は証人をにらむ姿勢を崩さない。

検察官「どういう対応をとったのですか」

証人「弁護士のことでは、私も相づちを打ち、そう思っていると弁護士に伝わると大変だと思い、慎重に言葉を選びました」

検察官「調書の任意性について押尾被告は、あなた(証人)が、侮辱するような態度を取ったと言っていますが」

証人「まったくの心外です」

前を向いたまま証言する証人に向かって微動だにせずにらむ押尾被告。激しい対決姿勢が続いた。

⇒(12)「ふざけんじゃない」「その医者連れてこいよ」 検事の追及に猛烈な逆切れ