(2)静けさ支配する法廷 「自責の念みてとれず」裁判長が強い非難も…
星島貴徳被告に対する無期懲役判決のショックがさめやらない法廷内は、水を打ったような静けさだ。判決文を読み上げる平出喜一裁判長の声だけが高い天井に響く。
裁判長「続いて殺人、死体損壊、死体遺棄の経緯について説明します」
裁判長は東城瑠理香さんを殺害、死体をバラバラに切り刻んだ星島被告の行動を説明していく。
これまでの6回の公判と同じく、星島被告は生気のない顔で背中を丸め、じっと床の一点を見つめたままだ。
裁判長「被告人は被害者を918号室の洋室まで連れ込んだ後、ベッドマットの上にあおむけに寝かせ、被害者が声を上げないように、口の中にタオルを押し込み、その自由を完全に奪うため、ビニールのひもで、手首と足首をそれぞれ固く縛った。被告人は被害者の左の額に傷があり、そこから血が出ていることに気づき、ハンカチを水にぬらして傷口にあてたが、血痕が残っているかもしれないと考え、タオルを持ち出して916号室(東城さんの部屋)に戻り、廊下の血痕や足跡をタオルでふき、指紋を消すために、台所下の物入れの扉をふくなどして918号室に戻った…」
判決は、星島被告がここで東城さんに乱暴しようとしたが、東城さんがけがを負っているために快感を感じず、簡単には性奴隷にできないのではないかと不安になったとしている。
さらに星島被告は、まずは自分が性的に興奮しなければ強姦できないと考えたが、緊張していたことや、被害者が叫んだり暴れたりするかもしれないと思うと怖く感じたこともあり、陰茎が勃起しなかったという。そこで、性的に興奮しようと音声を消したままアダルトビデオをみていたところで、ノックの音を聞いて驚いたという。警察の捜査が始まったことを知り、星島被告は東城さん殺害を決意する。
裁判長「(4月18日)午後10時40分ごろ、コンビニエンスストアに行くふりをして外に出ると、(東城さんの)916号室の前に警察官が3人立っていた。被告人は、被害者方の近くに住んでいる自分が真っ先に疑われ、警察官らが自分の部屋の中を確認しにくれば被害者が見つかり、自分は逮捕されてしまうと考え、もし自分が逮捕されてしまえば、月に50万円を稼げる仕事や、それなりにぜいたくな暮らし、自己の体面を失うと憂慮した」
「結局のところ、被害者を殺害し、その死体を解体して投棄し、被害者の存在そのものを消し去るしかないとの結論に至った…」
続いて裁判長は星島被告が東城さんの首に包丁を刺して殺害後、死体を解体してゆく様子を説明。最後に声を強めてこう断罪した。
裁判長「その動機は、事件が発覚して逮捕されることを恐れるあまり、被害者の生命や未来、心情、被害者を取り巻く人たちの気持ちなどに思いを巡らせることなく、ただひたすらに自己の身勝手な保身のみを求め、被害者を1個の人格としてではなくあたかも廃棄すべき者のごとく扱ったもので、自己中心的で卑劣であるというほかなく、酌量の余地は全くない!」
また、裁判長は星島被告の犯行が東城さんの2部屋隣で起きており、東城さんの姉や家族が心配し、警察官が間近で捜査を進める中で発生している点についても「見逃すことができない」と言及した。
裁判長「被害者は3人姉妹の次女として出生し、長野市内の小学校、中学校経て、県立高校を卒業後、平成15年4月、神奈川県内の女子大学に進学した」
裁判長は東城さんの生い立ちや家族構成にふれ、遺族の被害感情について説明をはじめた。
裁判長「東城さんの遺体は、細かく切り刻まれ、内臓や脳、眼球をえぐり出されるなどされた挙げ句、水洗トイレから下水道管に流されたり、ゴミ置き場に捨てられたりしたもので、わずかに骨組織49片、組織片172片が発見されたものの、それ以外は今なお下水道管などに留まっているとみられる。遺族らの悲嘆と苦痛はあまりにも大きい」
その後、裁判長は「死刑だと思います。(被告人)が死んでも許せません。お墓ができたら、ハンマーを持って殴りに行きたい」と出廷した姉ら遺族の証言に触れた。
裁判長「遺族の処罰感情は峻烈を極めている。にもかかわらず被告人は、遺族に対して、公判廷において謝罪したほかは何もしていない」
その後、東城さん殺害後、星島被告が警察を欺くなど徹底した証拠隠滅を図ったことに言及した。
「被告の犯行後の振る舞いからは、人を拉致(らち)して殺害し、その死体を細かく刻んで投棄するという凶悪犯罪を行ったことに対する自責の念や後悔の念をみてとることはできない。罪を免れたいという自己の都合のみを優先させた態度は強い非難に値する」
検察側の死刑求刑に対し、無期懲役判決を言い渡した裁判長だが、星島被告の犯行を厳しい言葉で非難した。