(17)「ここさ登って背を押しつけてやればどうなるべ」」

弁護人「なぜ大沢橋に行ったのか?」
鈴香被告「前に親戚(しんせき)がサクラマスをここで釣っていたので。釣具屋に勤めていたとき、釣った魚を持ってきてカラーコピーで魚拓のようにして取っていたので、こういう魚なんだと知っていた」
弁護人「大沢橋で釣れるというのも?」
鈴香被告「知っていた」
弁護人「何時ごろ?」
鈴香被告「サザエさんのテーマソングが流れたころだったので、6時ごろだったと思う」
弁護人「出るときに家に明かりはついていた?」
鈴香被告「明かりもテレビもつけたまま。すぐ帰ってくるつもりだったので」
弁護人「車で大沢橋まで行って、橋の中程の退避所のようなところで車を止めたんですね?」
鈴香被告「はい」
弁護人「2人で出て欄干のところに立った?」
鈴香被告「彩香の左横に私が立って、2人でしゃがんだ」
弁護人「それから?」
鈴香被告「彩香は少しのぞき込むようにして下を見ていたが、私は見えるはずないと思って、右手で彩香のズボンのところを持って、『ほら、見えねえべ』と言った」
弁護人「彩香ちゃんはどこから見ていたの?」
鈴香被告「ガードレールとコンクリートの隙間から両手でコンクリートにかけるようにして、身を乗り出すような感じ」
鈴香被告は証言台の上で両手を少し突っ張って実演すると、弁護人の顔を見た。
弁護人「首から上は欄干から出ていた?」
鈴香被告「そんなには出ていない」
弁護人「橋の上で彩香ちゃんが身を乗り出すような感じで川を見ていた?」
鈴香被告「はい」
弁護人「真下を見ていた?」
鈴香被告「真下じゃない。ちょっと斜めの前方」
弁護人「首から上は出ていない? 目は出ていた?」
鈴香被告「はい」
弁護人「そこで『見えねえべ』と言ったの?」
鈴香被告「それでも『見たい見たい』と繰り返して言った。彩香はそのままの状態で『見たい見たい』と言い続けて、いつもはもっと聞き分けのいい子なのにどうしたんだろうと思って、2人で立ち上がった」
弁護人「会話はさらに続いた?」
鈴香被告「はい…」
弁護人「思いだして言ってください」
鈴香被告「……」
核心に近づくにつれ、沈黙が増える鈴香被告。弁護側は、「彩香ちゃんの次はあなたが会話する番ですよね」と助け舟を出す。
鈴香被告「帰ろうとは言ったが、彩香は納得しなくて…『後で連れてきてやっから』と言った」
弁護人「どういう意味?」
鈴香被告「もっと明るいときという意味」
弁護人「彩香ちゃんは?」
鈴香被告「今見たい、と」
弁護人「その前に何かあったのでは?」
鈴香被告「……」
何か言おうとする弁護側に対し、藤井俊郎裁判長が「ここは重要なところだから」とさえぎる。だが弁護側は質問を続けた。
弁護人「『別の機会に連れてきてやるから』と言ったんですよね?」
鈴香被告「彩香は『この次っていつ?』と。普段から約束したら守らなきゃいけないと教えていたので、約束したらいつ、というときに必ず連れてこなきゃいけないので、『いつとはいえない』と言った」
弁護人「そうしたら彩香ちゃんは?」
鈴香被告「じゃあ今見たい、と」
弁護人「あなたはどう思った?」
鈴香被告「イライラして、『なんでこんなにダダこねるんだべ』『ここさ登って背を押しつけてやればどうなるべ』と一瞬考えた」
弁護人「どういう意味?」
鈴香被告「『(欄干に)登れば』と強く言えば、彩香も怖がってあきらめるだろうと。口調をきつく言えば怖がって登らないだろうと」
弁護人「そう考えてから(実際に欄干に)乗るまでに時間はあったのか?」
鈴香被告「はい」
弁護人「乗せて背中を押そうと決意したわけじゃない?」
鈴香被告「はい。一瞬パッと思ってしまった」
弁護人「話が戻るが、(これまでに)子供が事件になることをイメージしたことはある?」
鈴香被告「ない」
弁護人「(友人の)Aさんとのメールで、学童の列の中でのことを想像したというのは?」
鈴香被告「はい、それとは無関係」
弁護人「もう一度確認するが、『乗せて背中押したらどうなるべ』というのはどういう意味?」
鈴香被告「ちょっと脅かしてやったらどうなるだろう、と」
弁護人「それで彩香ちゃんにどう言ったの?」
鈴香被告「『本当に見たければここさ乗れば? 乗らねって言ったら帰るよ』と」
弁護人「あきらめて帰ると思ったの?」
鈴香被告「はい」
弁護人「あなたの考えた通りになった?」
鈴香被告「いいえ。(彩香ちゃんが)登り始めてしまったのでビックリした」