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第5回公判(2010.10.25)

 

(5)「ばあちゃんと美保を返して」「犯人を死刑に」…読み上げられた母の本音

林被告

 東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判第5回公判。弁護側証人の男性精神科医への質問が続いている。向かって右端の男性裁判員が質問を始めた。

裁判員「(思い詰め、意識の範囲が狭まる)意識狭窄とは、サッカー選手がボールしか見ていないような状況のようなものですか」

証人「そういったようなものです」

裁判員「今回の事件との違いはどのようなものですか」

証人「(サッカー選手は)意識狭窄を能力として使っています。その状態に持っていったり、外したり。今回はうまく使っているのではなく、追い込まれて使っているといえます」

裁判員「事前にシミュレーションしたりすることはありえますか」

証人「正直、分かりません。可能性はあるかもしれませんが、それは捜査の方で決めていただきたいです」

 若園敦雄裁判長が質問の終了を告げ、精神科医が退廷した。

 美保さんの父(法廷では実名)が書面で記した意見陳述を、代理人の女性がゆっくりした口調で読み上げ始める。

代理人「私が『美保』と聞いて真っ先に思いだすのは、美保が犯人に刺されて、1カ月間、病院に入院していたときの、体中が管につながれている姿です。平成21年8月3日、あの事件のあった日、私は仕事に出かけ、家にはいませんでした。車を運転中でした」

「事件のことを知ったのは妻からの電話です。『大変なことが起きた』というものでした。『おばあちゃんと美保が、家の中に入ってきた男に刺された、2人とも重体だ』という話を聞いたとき、頭の中が真っ白になりました。仕事場を引きあげてすぐに自宅へ向かいましたが、入ることができず、警察で事情聴取を受けてから妻と長男を連れてホテルに入りました」

 傍聴席から、涙をこらえ、はなをすするような声が漏れる。

代理人「次の日、病院に駆けつけました。美保は体中が管につながれていました。顔ははれ上がり、本当に美保なのか、分からない状態でした。小さなころに机の角にぶつけた(ときにできた)傷を見たとき、美保なんだなと初めて思いました。美保はすでに脳死状態…。私は毎日着替えを持っていきました」

「妻も、長男も家から出ることはできませんでした。美保は小さいころからとても優しく、しっかりした子でした。親思いの子で、両親のことを心配してくれました。芳江さんは美保に大学進学を勧めたのですが、高校を卒業後にすぐに働き始めました。私が肩の打撲で会社を休んだことや、私の妻の体調が思わしくないことから、両親に経済的に負担をかけてはならないと考えたのだろうと思います」

 林被告は被告側弁護人の隣の席でうつむいたまま座っている。目をつぶって聞いているようだ。

代理人「美保は最初、老舗の和菓子屋で働いていましたが、腰を痛め、耳かき店に転職したのです。耳かき店の方たちの証言から、『父がけがをして休んでいるので、自分ががんばらなくては』とか、『お金をためて親にあげる』と言っていたことが分かりました。美保には良い友達もたくさんいました。先日の1周忌には友達が10数名も来てくれました」

「耳かき店の店長さんや同僚の方たちにも感謝申し上げたい気持ちでいっぱいですが、美保は本当に職場の方たちに好かれていたのだと思います」

 事件後、娘と母親を同時に失った美保さんの母親の状況について、代読が続く。

代理人「妻に、犯人に対してどのような刑罰を望んでいるか、聞いてみました。妻は『ばあちゃんと美保を返してほしい。でも、それはできないことだというのも分かっている。だったら、犯人を死刑に処してほしい』と言っていました。この言葉こそ、妻の本音です」

 複数の裁判員が、代理人の読み上げる陳述書の内容にじっと聞き入っている。

 美保さんの兄の心境について読み上げが続く。事件後に体調が悪くなり、将来をめちゃくちゃにされたと訴えた。

代理人「事件は私たちの自宅で起きてしまいました。事件直後から自宅に戻ることができませんでした。引っ越しを繰り返すことになりましたが、妻の精神的な不安はかなり大きかったようです」

「事件によって生じた経済的損失もバカになりません。美保の治療費や転居などによってかかった費用は100万円以上です。私も仕事で以前のように早出や残業ができず、収入が減ってしまいました。預貯金もいつ底をつくか分からない状態で、将来のことを考えると不安でたまりません」

 林被告が座ったまま、ゆっくりと頭を上下に動かしている。

代理人「事件の直後、謝罪文の交付や賠償金の一部支払いの申し出もありましたが、断りました。被告人の謝罪を受ける気持ちにはなれず、示談をして被告人の刑を軽くするつもりもありませんでした。まったく冗談ではないという気持ちでした」

「被告人質問を聞いて、被害者の遺族に対する気持ちも、まったく伝わってきませんでした。あたかも美保に責任があるかのような発言があり、美保がおとしめられているようにしか思えませんでした。もともと一切期待していませんでしたが、本当にがっかりしました」

 女性裁判員の一人は涙を浮かべ、視線を代理人からそらさずにじっと聞き入っていた。

⇒(6)「美保やお母さんが刺されたカラー写真をしっかり見て」要望する父親