第5回公判(2010.10.25)

 

(3)殺意の芽生えは犯行前日?「十分な時間取れなかったので…」鑑定でも定まらぬ瞬間

犯行現場

 耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人をストーカー行為の末に殺害したとして、殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の精神鑑定を行った男性医師に対し、男性弁護人が証人尋問を続けている。

 弁護人は、事件当時の林被告の判断能力について、質問を進めている。

弁護人「事件当時の善悪の判断能力などはどうですか」

証人「そのときは、行動能力や判断能力は落ちていると思います」

 弁護人の質問はここで終了し、続いて男性検察官が質問に立った。裁判員や裁判官は、証人の顔を見ながら時折、メモを取っている。林被告は正面を向いたまま微動だにしない。

検察官「続いて検察官から質問します。あなたは被告を何回、面談しましたか」

証人「4回です」

検察官「十分な時間でしたか」

証人「十分な時間が取れれば望ましいですが…」

 男性医師は、供述調書などの資料を参考にしながら進めたため、比較的短い時間でも鑑定が可能だったことを細かく説明しようとした。

検察官「質問には、はい、いいえで答えて下さい」

証人「はい、いいえで答えられない場合はどうしたらいいですか」

検察官「そのときは理由を述べて下さい」

証人「はい」

 検察官は医師の説明が長いことに不満げな様子で質問を続けた。

検察官「きちんと判定するならどれぐらいの時間、面談すればいいと思いますか」

証人「よく分かりません」

検察官「公判で話されていることは暫定的なのか、確定的なのかどうですか」

証人「情動行為(感情からの行動)についてはそこそこ確定的だと思います」

検察官「親族には面会しましたか」

証人「していません」

検察官「法廷での被告人質問は聞きましたか」

証人「聞いていません」

検察官「被告が法廷で話した内容は知っていますか」

証人「詳しくは知りません」

検察官「面談で、被告が耳かき店に来店した経緯などについては聞きましたか」

証人「聞いたと思いますが、供述調書を参考にしたと思います」

検察官「被告の女性との交際経験については聞きましたか」

証人「供述調書を参考にしたと思います」

検察官「殺害を決めたのはいつだと思いますか」

証人「正直、いつかはよく分かりません。十分な時間を取って丁寧に聞いているわけではないので。意見書には2日と書いた記憶はありますが、調書を参考にしたと思います」

検察官「意見書の中では、殺害を考えるようになったのは事件前日の8月2日と推定されると書いていますよね」

証人「そうでしたよね。聞いたとは思いますが、2日と書いたのは十分な時間が取れなかったので、供述調書を参考に書いたので…」

検察官「2日とした根拠は何ですか」

証人「特定できるほど見ていないのは確かです。細かいところまで見られていないので、おおよそいつごろからとかについては供述調書を参考にしたのですが。ゼロからやるとなると鑑定の時間では…調書を参考にするのはいいんですよね?」

検察官「被告は証人に対しどのように話していたか覚えていますか」

証人「いつごろからを特定するのに丁寧にやっていたわけではないので…」

 検察官と鑑定医との間で、やや切迫したやり取りが繰り広げられた。

 続いて検察官は、林被告の人格傾向について質問を始めた。林被告は、やや独断的▽他人に対する共感性が低い▽感情を自己統制するのが難しい−などの傾向が認められるという。

検察官「こうした人格傾向が、犯行に結びついたと考えられませんか」

証人「考えられません」

 その理由について細かく説明し始めた男性医師。若園敦雄裁判長は、「まず結論を言って下さい」と注文をつけた。裁判員は男性医師の顔をじっと見てメモを取っている。

 続いて男性検察官は、被告が事件当時に鬱(うつ)状態であったどうかを聞いていった。男性医師は、基準は満たしており、鬱状態であったと思うと述べた。

 林被告は終始正面を向いたまま、やりとりに耳を傾けていた。

⇒(4)検察官に逆質問する精神科医に裁判長「あなたから質問しないで」