初公判(2010.11.24)
(6)「コートのすそは風でふくらみ」「非常階段のドアを肩で押すように」…逃走状況を詳細に語る目撃者
中央大理工学部の高窪統教授=当時(45)=を殺害したとして、殺人罪に問われた教え子で家庭用品販売店従業員の山本竜太被告(29)に対する裁判員裁判の初公判は、終盤を迎えた。男性検察官は、叫び声を聞いたという男子学生の供述調書を読み上げている。学生は、キャンパス内の中央階段付近で靴音を聞き、しばらくすると3階の廊下に人が飛び出してきたという。
検察官「その人は、全身が黒っぽい格好でした。黒っぽいニット帽をかぶっていました。廊下に飛び出すと、僕に背を向けました。顔は見えませんでしたが、肩幅などの体つきから男性だろうと思いました。その後、西側へ向かって走っていきました」
校内を走っている人はそう多くないことから、学生は「何をそんなに急いでいるのだろう」と感じたという。
検察官「男性のコートのすそは風でふくらんでいました。小走りよりちょっと早いぐらいのスピードに見えました。右手は自由に動いているのに対し、左手は固定されているように見えました。左手で左肩、左胸を押さえているようにみえました。左脇にバッグを抱えているのかと思いました。その人は非常階段のドアを肩で押すようにして開けて出ていきました」
一連の目撃時間は、時間にして10秒もなかったという。続いて供述調書に添付された図面が、法廷内に設置された大型モニターに映し出された。検察官はこの図を使い、山本被告がたどったルートを説明した。
検察官「続いて、事件後の被告の逃走や犯行後の行動について説明します」
山本被告が逮捕後、警察官を案内し説明したという逃走ルートについて、検察官は地図と写真を使って説明しようとしているようだ。まず初めに、被告が通った大学の門のカラー写真が、大型モニターに映し出された。
裁判官や裁判員は、手元のモニターをじっと見つめている。山本被告はまばたきをしながら話に耳を傾け微動だにしない。
検察官「山本被告は途中、この公衆トイレで手を洗いました」
場所を示す地図が映し出されたあと、公衆トイレのカラー写真も映し出された。同様に、被告がバットケースに凶器をしまったとされる寺も紹介された。
検察官「被告は地下鉄飯田橋駅で、南北線に乗りました。防犯カメラに映像が残されています」
法廷内の大型モニターで、防犯カメラの映像が、9枚のカラー写真として紹介された。リュックを背負った黒っぽい格好の人物が、駅構内を移動する様子が映し出されている。
検察官「被告はこの後、平塚八幡宮に立ち寄りました」
大型モニターに地図と写真が示された。
検察官「神社の絵馬かけで『終生新旅 2009・1・14 山本竜太』と書かれた絵馬が発見されました」
赤い絵馬かけにくくりつけられた絵馬の写真が映し出された。絵馬には黒いマジックのようなもので文字が書かれている。
検察官「以上で終わります」
検察官が席につくと、今崎幸彦裁判長は隣の裁判官と簡単に打ち合わせ、正面を向いて告げた。
裁判長「今日予定していた証拠調べはこれで終わります」
続いて裁判長は山本被告のほうを向いた。
裁判長「被告いいですか。今日の予定は以上で、次は26日の金曜日の10時から開廷しますので出廷してください。この日はあなたからも話を聞くことになりますから、頭を整理しておいてください」
山本被告は裁判長のほうを向いて聞いている。裁判長が閉廷を告げると、裁判員らは、疲れたような表情で退廷。その後、男性弁護人がにこやかな表情で山本被告に話しかけると、山本被告はうなずきながら話に聞き入っていた。