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初公判(2010.11.24)

 

(2)犯行後購入の絵馬に「終生新旅」と書き込む 弁護側は心神耗弱を強調

中央大学

 中央大理工学部の高窪統教授=当時(45)=を殺害したとして、殺人罪に問われた教え子で家庭用品販売店従業員の山本竜太被告(29)に対する裁判員裁判は、男性検察官による冒頭陳述が続いている。

 男性検察官は、山本被告が、高窪教授を殺害すれば自身の身の回りの不審な出来事が止むだろうと考える一方、逮捕されれば死刑になるかもしれないとも考えるなど、犯行を思いとどまる気持ちもあったと、被告の感情の揺れを説明している。

 山本被告は結果的に、平成20年5月ごろに殺害を決意したという。検察官は裁判官や裁判員に向けこう語りかけた。

検察官「これまでの話を変な話だと感じられるかもしれません。背景には、精神障害の影響がありました」

 検察官は、山本被告が犯行に至る経緯を説明し始めた。山本被告は無表情に正面を見据え、検察官の読み上げに耳を傾けている。

検察官「被告は確実に高窪教授に会える場所として、中央大学後楽園キャンパスを選びました。被告は平成20年6月10日〜21年1月6日まで約7回、キャンパスで下見を繰り返しました」

 山本被告は、犯行場所となった男子トイレの写真を撮ったり、高窪教授の行動確認を行ったりして、教授が出勤後に犯行場所となったトイレを使うことを把握するなど周到に準備を重ねたという。

検察官「これらと並行し、凶器も準備しました。20年9月に刈り込みばさみを購入しましたが、不審がられないよう、あえて遠くのホームセンターに行きました。はさみは分解して先端にヤスリをかけ、自分の手で凶器を作りました」

 山本被告はこうした準備をしながら、逮捕されれば死刑になるかもしれないのでやっぱりやめようと考えたり、一方で必ず逮捕されるわけではないと思うなど、揺れ動いていたようだ。

 裁判員は真剣な表情で手元の資料を読んでいる。

検察官「犯行前日の21年1月13日、被告は凶器を準備しトイレの個室で待ち伏せし、入ってきた高窪教授を発見しました。しかし、抵抗された場合の対処法が不十分だったことに気がつき、殺害を断念しました」

 山本被告は帰宅後、殺害をシミュレーションしたという。続いて検察官は犯行状況を説明し始めた。

 山本被告は凶器を2つ用意し、一本は予備にしていたという。午前6時半すぎにキャンパスに着き、犯行場所に髪の毛を落とさないようにニット帽をかぶり、凶器をコートの内側に隠した。非常階段の踊り場から双眼鏡で高窪教授が登校するのを確認し、トイレの個室に隠れた。

検察官「トイレの個室のドアのすき間から高窪教授の姿を確認すると凶器を取り出し、背後から背中を突き刺しました」

 高窪教授は抵抗し、指が山本被告の口の中に入った。倒れてからも被告に足げりするなどして抵抗した教授を、山本被告は執拗(しつよう)に刺したという。

検察官「犯行後、トイレから出た廊下で男性に出くわし、被告は狼狽(ろうばい)しました。飯田橋の駅から電車で家に帰りました。途中神社に立ち寄って絵馬を買い 『終生新旅』という文字を書きました」

 帰宅後、山本被告は犯行時に着ていた服を捨てたり、警察に事情を聴かれたときのために想定問答を作ったりしたという。

検察官「続いて山本被告の精神障害について説明します」

 山本被告は犯行当時、妄想性障害にかかっていたと説明する男性検察官。妄想が長い間続く精神障害で、山本被告はこの影響により、高窪教授が中心の団体が自分に危害を加えると思いこんでいたという。

 検察官は、精神障害と刑事罰との関係を説明。妄想性障害が大きな影響を与えていたとする一方で、完全に精神を支配していたわけではないと主張した。さらに、周到に準備したり、犯行が悪いことだと理解していたことなどを挙げ、心神耗弱状態だったと述べ、冒頭陳述を終えた。

 続いて男性弁護人が冒頭陳述に立つ。弁護人は裁判官や裁判員の方を向き、語りかけるように読み上げを始めた。

弁護人「まず、山本君は妄想性障害に罹患(りかん)していたということを強く心にとどめてください」

 弁護人は山本被告を「君」付けしながら、その生い立ちを語り始めた。母親の強力な愛情の下に育ち、子供のころはエレクトーンなどの習いごとや塾通いに時間を費やしたという山本被告。中学時代は同級生からロッカーに閉じこめられるなどのいじめを受けたが、高校では得意の音楽を生かして校内で活動するなど充実した生活を送り、学校の推薦枠で中央大学理工学部に進学した。

弁護人「この大学は山本君にとっては次善策でした。本当はかつて悩んだことのある人間関係について学びたかったという希望を持っていました」

 山本被告は授業内容が理解できずに、当初からつまずき、文学部に転部したいと申し出たが、推薦枠で入学したため、かなわなかった。他大の受験にも失敗し、母親の期待に応えて卒業することが、自分の課題だと思うようになったという。

弁護人「山本君は彫刻刀やカッターで自分の腕を切ったり、顔を切りつけたりする自傷行為もしていました」

 4年で卒業できなかった被告は、5年生で、これまでの講義で好感を持っていた高窪教授の研究室に入った。しかし、『研究室の人は自分を不審の目で見ている』と感じるなど、嫌われているとの思いこみを強めていった。

 やがて山本被告は、自宅を盗聴されている、組織的な監視を受け続けているなどと思いこみを強めていった。決定的だったのは、15年12月に開かれた研究室の忘年会という。

弁護人「12人ほどが参加した居酒屋での忘年会で、山本君はテーブルの端に座っていた高窪教授と話せませんでした。また、帰宅後に頭痛や吐き気などの食中毒症状が出ました」

 研究室に復帰後も仲間から気遣う言葉はなく、研究室に対する不信を強めた山本被告。大手食品会社に内定し入社するが、2カ月ほどでやめてしまう。その後も山本被告は職を転々とし、自分を攻撃する圧力団体が存在しているなどの妄想を強め、犯行に至ったという。

弁護人「山本君はほっとして逮捕を受け入れました。妄想性障害に関しては、鑑定人から説明がされます」

 山本被告はまばたきをしながら弁護人の説明に聞き入っている。

弁護人「圧力団体から攻撃され、全幅の信頼を置く母から盗聴のことなどを聞かされて妄想を進化させ、(高窪教授の)殺害を決意しました。およそあり得ないことですが、山本君にとってはやむをえない選択だったのです」

「山本君は心神耗弱の状態だったと弁護人は考えています。刑罰に関しては弁論でお話しします。弁護人の冒頭陳述を終わります」

 続けて今崎幸彦裁判長が公判前整理手続きの結果について説明を始めた。

裁判長「争点を整理した結果です。事実関係に争いはありません。責任能力についてですが、当時、被告が妄想性障害で心神耗弱だったという点について当事者間に争いがあります」

「争点は、心神耗弱を前提として、いかなる刑罰を負わせるかということです。さまざまな事情がどの程度重みを持つか、争いがあります」

 今崎裁判長は公判前整理手続きの結果について説明を終えると、午後2時34分、休廷を告げた。6人の裁判員は少しほっとした様子で立ち上がり、一礼して退廷。山本被告は弁護人と小声で何かを話し合っていた。

⇒(3)次々出てくる凄惨な現場写真に凶器…不安げな裁判員