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(5)「人間、誰でも起こりうることかも…」証人、被告の動機に触れ

加藤智大(ともひろ)被告(27)の犯行を目撃した男性が、証言を続けている。証言台の男性は数人の検察官に囲まれて、これまでに証言した内容と、見取り図に書き込んだ内容を照らし合わせている。それが終わると、再び女性検察官が質問を始めた。

検察官「事件後、加藤被告が犯人として捕まったことを、どうやって知りましたか」

証人「最初は、ニュースを見た友人からのメールで知り、その後、自分でもニュースを見ました。事件が終わってすぐのニュース速報と、その後はインターネットで見ました」

検察官「加藤被告の顔は映っていましたか」

証人「当日かどうかは分かりませんが、(顔は)見ました」

検察官「現場で見たのと同じ人物でしたか」

証人「服の特徴や、雰囲気も似ていたので、間違いないと思いました」

検察官は「目撃情報についての質問は以上です」と断った後、現在の証人の思いや、処罰感情に関する質問に移った。

検察官「その後、被害者がどうなったか知っていますか」

証人「ニュース速報で、被害者が増えていくのを見て、十数人が襲われ、7人の方が亡くなったと知りました」

検察官「そのことをどう思いましたか」

証人「増えていく様子を見て、『これ以上増えないで』と思っていました」

検察官「事件を目撃したことで、あなたの日常生活に影響は出ましたか」

証人「事件後、1週間くらいは、あまり眠れない日が続きました。仕事中や寝る前などに、頻繁に事件を思いだしました」

検察官「どのようなことを思いだしたのですか」

証人「…襲われるさまや、110番通報したときに、もう少し伝えるのが早ければ、もっと早く(警察官が)来られたのではないかなと思いました」

検察官「もうすぐ2年になりますが、今はどうですか」

証人「普段は影響ありませんが、たまに事件を思いだすと、考え込んだり、気持ちが沈んだりすることはあります」

女性検察官の質問に、男性はよどみなく答えていく。

検察官「事件前、秋葉原にはよく行っていたのですか」

証人「近くに住んでいたので、毎週のように行っていました」

検察官「あなたにとって、秋葉原はどういう街でしたか」

証人「歩行者天国とか、いろいろあったけど、楽しくてすてきな街でした」

検察官「事件後はどうですか」

証人「良くも悪くも、静かになりました。歩行者天国もないし、寂しくなったと思います」

検察官「事件当時の秋葉原は、例えていうならどういう状況でしたか」

証人「…ひとことで言うなら、『戦場』というか、『地獄絵図』というか。そういう感じでした」

検察官「この事件について、どう思いますか」

証人「ニュースで動機を知ったときには、私は現場にいただけで、知り合いや身内は(被害者に)いませんでしたが、それでも動機を知って、自分が犯人を殺してやりたいくらいの怒りを覚えました」

検察側の冒頭陳述によると、加藤被告は自分の就労状況が不安定なことや、悩みを書き込んでいた携帯電話の掲示板が「荒らし」にあったことなどに一方的に憤りを深め、「大きな事件を起こして自分の存在を認めさせよう」と犯行を決意したとされる。証人は続ける。

証人「…そんな怒りはもうないですが、事件からしばらくたって、考えてみると、その動機は、人間誰でも起こりうることなのかなと、思います。人間、少しタガが外れると、ああなるのかな、と。だからといって、共感や同情はしませんが、自分もタガが外れると、ああなるのかもしれないと思います」

加藤被告は、うつむいてじっと聞き入っている。

検察官「どのような処罰を望みますか」

証人「そんな動機でやったのだから、どうなろうとも、極刑以外はないと思います」

証人の厳しい処罰感情を引き出して、検察側の主尋問は終わった。続いて女性弁護士が反対尋問を始めた。大型モニターに、いったん消えていた見取り図が再び映し出される。

弁護人「110番通報したとき、周りの状況はどうでしたか」

証人「パニックに陥っていて、叫び声が聞こえたり、混乱した状況でした」

弁護人「あなたの精神状態はどうでしたか」

証人「電話越しに『場所を教えて』といわれましたが、焦っていました。警察官から『少し落ち着いて』といわれ、落ち着いて『(パソコン量販店)ソフマップ前の交差点』と伝えました」

弁護人「平静ではなかったと?」

証人「はい」

検察側の尋問への回答を確認するような質問を続けたあと、女性弁護士は「以上です、ありがとうございました」と結んだ。さらに証人は印を付けた見取り図への署名を済ませたあと、村山浩昭裁判長に促され、退廷していった。

裁判長「今日はさらに、もうひと方残っています。調書と尋問です。少し時間が必要なので、ここでいったん休廷します。2時35分再開とします」

加藤被告は係官に従って退廷した。傍聴席の前を通る際には、これまでの公判と同様、深々と頭を下げていった。

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