(4)そのとき目撃者は…110番通報で被害の様子を“ライブ中継”
加藤智大(ともひろ)被告(27)の公判は、約2時間の休廷を挟み、予定通り午後1時半に再開された。村山浩昭裁判長が加藤被告の入廷を促す。加藤被告は傍聴席と裁判官席に向けてそれぞれ一礼して被告人席に着席する。顔色は青白く、いつも通り表情に乏しい。
続いて、この日3人目の証人が入廷してくる。紺色のスーツ姿の男性で、見た目は20〜30代前半といったところだ。偽証しないことを宣誓し、証言席に着席。女性検察官が尋問を始めた。
検察官「平成20年6月8日に、秋葉原で起こった事件の現場にいましたね」
証人「はい」
検察官「なぜ、この日、現場の近くにいたのですか」
証人「自宅の近所の美容室が秋葉原の清掃活動を行うことになっていて、それに参加しました」
検察官「6人くらいで参加したということですが」
証人「はい」
検察官がここで、証人尋問ではおなじみとなった、現場交差点の見取り図を証人に示した。
検察官「どこら辺でゴミ拾いをしていましたか」
証人「中央通りです。(現場の)交差点の南の方で、南側を向いて(現場に背を向けて)いました」
検察官「(事件発生時)どのようなことがありましたか」
証人「後ろの方(交差点側)から『ドーン』という音が聞こえました」
検察官「何が起きたと思いましたか」
証人「交通事故が起きたのだと思いました」
検察官「その後、どうしましたか」
証人「110番通報しながら、交差点に近付きました」
検察官に促され、ゴミ拾いをしていた位置や、交差点のどのあたりまで歩いていったのかを見取り図に記入する。
検察官「倒れている人はいましたか」
証人「3人いました」
証人は続いて、加藤被告のトラックにはねられたとみられる被害者3人の位置を見取り図に記入した。
検察官「3人はどのような感じでしたか」
証人「2人は事故ではねられたせいか、服が脱げているような感じ。もう1人は細かくは覚えていません」
検察官「そのとき警察官を見ていますね」
証人「はい」
今度は警察官の位置を記入した。
検察官「その後、視界には何か入りましたか」
証人「右の方(交差点東側)から男が走ってくるのが見えました」
検察官「その男は何かしましたか」
証人「警察官に近付き一瞬止まると、警察官の脇腹を殴ったように見えました」
検察官「男はどのような感じでしたか」
証人「細身で、悪くいうと、優男のような感じでした」
検察官「その男をこれから犯人と呼ぶことにします。警察官に近付いた後、犯人は脇腹を殴ったように見えたということですが、何か持っていましたか」
証人「持っているようには見えませんでした」
検察官「殴られたように見えた警察官はどうなりましたか」
証人「少し後ずさりする感じで、その後、倒れました」
検察官「犯人はその後、どこに行きましたか」
証人「(交差点西側の)電器店のほうに向かっていきました」
検察官「そのときの様子は?」
証人「蛇行しているような感じで、少々腕を広げて近くの人に近付く感じでした。2、3人に攻撃したように見えました」
検察官の指示で、証人は攻撃されたように見えた2人の位置を見取り図に書き込む。証人は気持ちを高ぶらせることもなく、淡々とした様子だ。
検察官「(交差点西側で)犯人はどうしましたか」
証人「男の人にぶつかった気がします」
証人はぶつかられた男性の位置も記入した。
検察官「あなたはその後どうしましたか」
証人「交差点に視線を戻しました」
検察官「110番はつながったままですね。警察官には何を伝えましたか」
証人「最初は交通事故だと思ったので、現場の様子を伝えましたが、警察官が倒れるのを見てからは犯人の特徴を伝えました」
検察官「(通報先の)警察官からはどんな指示がありましたか」
証人「目に見える限りの被害者の様子を見てほしいと言われました。詳しくは見えない部分がありましたが、(先にはねられた)3人は全身血まみれで、息もしていない様子だったので厳しいなと思いました」
その後、検察官は証拠として提出している事件当時の現場の写真を証人に見せて、証言の内容と写真で被害者の様子が一致しているかを確認した。尋問中、加藤被告は、目線を落としたまま。ほとんど身動きもせず、被告人席に座っている。