(7)被告への怒り「反省も意味なし」…事件思いだし外出できないままの婚約者
トラックを降りた直後の加藤智大(ともひろ)被告(27)にダガーナイフで背中を刺されたとされるDさん。重傷を負って、病院に運び込まれた。隣に居合わせ、その様子を目撃した婚約者女性の証言が続く。
検察官「入院していたDさんの様子はどうでした」
証人「ベッドから動けず、痛みも全然引かず、ご飯もろくに食べられず、つらそうでした」
か細い声で、しぼり出すように証言を続ける女性。加藤被告は身じろぎもせずに、少し上向きにまっすぐ前を見すえている。
検察官「その後はどうでした」
証人「へんなしゃっくりがこみ上げてきて、ご飯も軽いものしか食べられませんでした」
検察官「傷の痛みはその後も続いていますか」
証人「何もなくても痛んで、その痛みが3カ月続きました」
検察官「それをそばで見ていて、証人はどんな気持ちでしたか」
証人「何でこんな目に遭わなければいけないのかと。理不尽な思いでした」
検察官「事件後、Dさんはどうなりましたか」
証人「単に外に出るのもいやになりました。すれ違う人も怖がって、ほとんど家にいて、引きこもってしまっています」
検察官「事件に関してDさんは何といっていますか」
証人「ふさぎ込んで、無気力になって、何も手につかない状態です」
検察官「仕事もできない状態ですか」
証人「はい」
検察官「Dさんの両親はどうですか」
証人「すごく心配して見にきてくださって。ご飯を食べに連れ出したりしてくださいますが、事件の話になると、みんな泣いてしまって…」
証人席に設置された遮蔽用の衝立の向こうから女性のすすり泣く声が聞こえる。事件の証言を続けるうちに、当時の感情がこみ上げてきたのだろうか。しかし、女性は少し間を置くとおくと、絞り出すようにこう続けた。
証人「全然忘れられないです」
検察官「Dさん自身は事件について、どう思っているのでしょうか」
証人「忘れたくても忘れられないと。早く終わらせたいと思っています」
検察官「判決を早く出してほしいということですか」
証人「ひとつの区切りとして、そうしてほしい」
検察官「事件についてどんなお気持ちですか」
証人「本当に何でこんな目に遭わないといけないのかと。秋葉原に行ったことをすごく後悔して…。両親にも申し訳ないです。早く事件前の彼に戻ってほしい」
検察官「手紙を送りたいとの被告側からの申し出を拒絶されましたね」
証人「はい」
検察官「ご自身が、事件後に変わったことはありますか」
証人「後ろに人がいるだけで怖い。人とすれ違うだけで、何かするんじゃないかという気持ちに駆られます」
検察官「事件当時、着ていた服はどうしましたか」
証人「買ったばかりの服でしたが、服を着ると同じようなことが起きるんじゃないかと…。もうこんなことは起きてほしくないと、ずっとしまっています」
その後、検察官は証人に事件当時の写真や現場を写した防犯カメラの映像を見せ、確認する。衝立にさえぎられ、傍聴席からは様子は見えないが、「この写真は」との検察官の問いに「犯人です」「彼です」と、はっきり答える女性の声が聞こえる。
次に検察官が加藤被告の事件当時の服装の写真を女性に示しているようだ。
検察官「このジャケットとズボンに見覚えはありますか」
証人「はい。犯人が着ていたものです」
震える声から一転、女性はきっぱりと、そう断言した。さっきまで身じろぎもしなかった加藤被告は徐々に視線を落とし、しきりにまばたきを始めた。
検察官「証人は犯人を見ていますね。この中に犯人はいますか」
違う人物も含む複数枚の写真が女性に示されたようだが、女性は「これです」と即座に1枚を選び出した。検察官が締めくくりの質問に移る。
検察官「Dさんの被害の状況を話され、先ほど涙を流されましたね。どんなお気持ちでしたか」
証人「事件から1年たち、2年になろうとしていますが、あのときの記憶が忘れられなくて。私自身、早く忘れたいんです」
検察官「犯人に対してはどんな気持ちですか」
証人「どうしても許せない気持ちでいっぱいです」
検察官「刑の希望は」
証人「極刑を望みます」
女性の声に当初の震えはなく、はっきりそう口にした。
検察官「それはDさんも同じですか」
証人「はい」
検察官「最期に何か言いたいことはありますか」
証人「犯人に対して絶対許せません。反省の言葉をいっても私たちには意味がないです。自分のしたことの重さをしっかり考えてほしいです」
「病院でお世話になった先生、気遣ってくれたおじさんたちにもお礼がいいたいです」
「遺族の方の傷が早くいえることを望みます。目撃され、心に傷を負った人の傷も早くいえることを望みます。私からは以上です」