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(5)はねられた被害者は目を見開き、『ア』か『オ』を口にした

これまで加藤智大(ともひろ)被告(27)が犯行に至った経緯に関する質問が続いていたが、ここから検察官は被害者一人ひとりの被害状況を詳しく尋ね始めた。

検察官「今回の被害者のAさんと川口(隆裕)さんが並んでいたのは見えましたか」

加藤被告「はい」

Aさんと川口さんは、友人のBさん、Cさんと4人で事件現場の交差点を歩いていたところ、加藤被告のトラックにはねられ死亡した。

検察官「どういう位置関係で並んでいましたか」

加藤被告「トラックの進行方向に並行に2人が並んでいました。トラックに近い方が川口さんだったと思います」

検察官「2人だと分かったのは服装で覚えているのですか」

加藤被告「状況から覚えています」

検察官「状況とはもっと詳しく話してください」

加藤被告「Aさんと川口さんとBさんとCさんが4人で2人ずつ並んでいた。そういった話を後で聞いて、私が『トラックでひいた人』として記憶に残っているので間違いないと思います」

検察官「川口さんの表情はどのようでしたか」

加藤被告はしばらく押し黙った。当時の状況を思いだしているようだ。

加藤被告「目を大きく見開いて、口も『ア』なのか『オ』なのか開いていた。目が合ったが、『何で』という感じで訴えかけてくるような表情でした」

生々しい様子を淡々と語る加藤被告。傍聴人はかたずをのんでその言葉に耳を傾ける。

検察官「それを見てブレーキをかけようとは思いませんでしたか」

加藤被告「そのときの自分の気持ちを表現できる言葉が分からないのですが、非常に気持ちが悪いという感じでした」

加藤被告は当時の気持ちを理解しがたい表現で表した。検察官は続けて川口さんがはねられたときの詳しい状況に質問を移すが、やはり加藤被告の記憶は定かではない。

検察官「当時の詳しい状況を被害者や遺族が知りたがっている。だから再び聞いているのです。あなたはちゃんと思いだして話すべきです」

加藤被告「はい…」

加藤被告は力ない返事で答えた。

検察官「公判の中でDさんの刺し方などを話しているが、Dさんはどんな様子だったか覚えていますか」

Dさんはトラックから降りた加藤被告にナイフで背中を刺され、重傷を負った。

加藤被告「証拠書類を見てDさんだったと分かり、記憶の中からそのときの様子がよみがえってきました」

検察官「Dさんは声を上げたとか表情とか、記憶はよみがえりませんか」

加藤被告「顔を見ていなかったし、声を聞いた覚えもないが、体を『く』の字に折り曲げる感じになったのは覚えています」

検察官「その後、Dさんがどうなったかは気になりませんでしたか」

加藤被告「刺した後のことはよく覚えていません」

検察官「Eさん、Fさんのことはまったく覚えていませんか」

EさんとFさんは胸や背中を刺され、いずれも死亡した。

加藤被告「申し訳ありませんが、まったく覚えていません」

検察官「あなたが覚えているのは命を取り留めた人の話ばかりですよね。亡くなった人に対しては、何をしたのか覚えていないのですか」

加藤被告「覚えていません」

検察官は再び被害者一人ひとりの被害当時の様子を尋ね始めた。

検察官「交差点の中に倒れている人がいたのは分かっていましたよね」

加藤被告「はい」

検察官「Aさん、川口さんがどうなっているかは気に留めなかったのですか」

加藤被告「そういうことを考えた覚えがありません」

検察官「○○さん(法廷では実名)を刺した感触は覚えていますか」

○○さんは加藤被告に背中を刺され、重傷を負った。

加藤被告「覚えていません」

検察官「刺した後、○○さんがどうなったかは覚えていますか」

加藤被告「刺した後のことは覚えていません」

検察官「Kさんの表情や姿勢でも何でも覚えていることはありますか」

Kさんとは、逃げているところを背後から加藤被告にナイフで刺され、重傷を負った女性だ。

加藤被告「白い服の人が走っているのを…、(洋服の)背中の部分がヒラヒラしている感じとかが見えていたけど、申し訳ないのですが本人の様子は覚えていません」

検察官「あなたは『覚えていない』と言うでしょうが、あえて聞きますけど、逃げるKさんをあなたは後ろから刺しましたか」

加藤被告は前を向いたまま黙っている。

検察官「逃げている女性を後ろから刺すということに心理的な抵抗は感じなかったのですか」

再びしばらく押し黙った後、加藤被告は口を開いた。

加藤被告「刺したとき、どんな気持ちだったかはよく分かりません」

ここで検察官は加藤被告を取り押さえようとしてナイフで切りつけられた男性警察官についても触れた。

検察官「あなたは公判の中で、弁護人の質問に対して『警察官を傷つけるのはまずい、危害を加えてはならないと考えた』と答えているが、どうして刺したのですか」

加藤被告「そう考えたときにはすでに遅かったのです。刺す直前だったのか直後に考えたのかは分かりません」

さらに検察官は続けて他の被害者の被害状況を立て続けに質問しようとするが、加藤被告は『覚えていません』と答えるばかり。

検察官「記憶はないけどナイフで攻撃を加えたのは間違いないということですか」

加藤被告「間違いありません」

加藤被告は終始、落ち着いた様子でほとんど身動きすることなく質問に答えていく。

⇒(6)ナイフを素直に捨てた理由…耐刃防護衣に「警視庁」の3文字