(3)ナイフ以外に特殊警棒も買っていた! その理由は…
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)への検察側の質問が続く。男性検察官は加藤被告が事件前、凶器のダガーナイフを含むナイフ類を買った経緯について尋ねていく。
検察官「福井のショッピングモールにあるミリタリーショップでナイフ6本や特殊警棒、手袋を購入しましたね?」
加藤被告「はい」
検察官「この店はショッピングモールの中にある小さな店でしたね?」
加藤被告「はい」
検察官は、加藤被告が当時の様子をしっかり覚えていることを確認しているようだ。
検察官「ナイフを買った理由は?」
加藤被告「事件を意識して買ったと考えるのが自然だと思います」
人ごとのように加藤被告は答えた。
検察官「記憶にはないのですか」
加藤被告「買い物をした当時、何を考えていたのかは覚えていません」
検察官「犯行に使ったダガーナイフを買っていますね?」
加藤被告「はい」
検察官「ダガーナイフは何に使おうと思っていたのですか」
加藤被告は数秒、沈黙する。女性裁判官は加藤被告の顔を見つめ、返答を待つ。
加藤被告「買い物のときの記憶があるわけではないので、どう思って買ったのかは説明できません」
検察官「(購入した)スローイングナイフは5800円でしたね?」
加藤被告「覚えていません」
検察官「ブーツナイフは5000円でしたね?」
加藤被告「記憶にないです」
検察官「ダガーナイフは1万2600円したんですね?」
加藤被告「値段は覚えていません」
正面を見ながら、淡々と答える加藤被告。男性検察官は隣に座る検察官と何かを相談した後、再び質問を始める。
検察官「特殊警棒を買った理由は何ですか?」
加藤被告「レジカウンターの(近くにある)商品を陳列する棚に催涙スプレーなどが並んでいて、それを眺めていました。何も買わないでおこうと思ったのですが、店員の目の前で物欲しそうに見ていたのに何も買わないのは何だか申し訳ないと考えて、特殊警棒を買いました」
検察官「ナイフ6本を買ったのに、そういった理由で特殊警棒を買ったわけですね?」
加藤被告「はい」
加藤被告は凶器のダガーナイフを買った動機については「買い物当時のことは記憶にない」としながらも、特殊警棒に関しては動機を克明に話した。
検察官「その店で対応したのは女性店員でしたか」
加藤被告「はい」
検察官「会話は覚えていますか」
加藤被告「一部覚えています」
検察官「話してください」
加藤被告「スローイングナイフについて『投げたら刺さるのか』と聞いたら、『ベニヤくらいなら刺さる』と答えていました」
検察官「ほかには?」
加藤被告「ナイフを売っていたので、『(ナイフを売るということは)店としてどうなんですか』と話を振ったら、『危ないものはほかにもある』と反論されました」
検察官「ほかには?」
加藤被告「タクシー乗り場の場所を聞きました」
検察官「ほかには?」
検察側はナイフ購入時の具体的な記憶に関する証言を引き出すことで、加藤被告の「ナイフを買った理由を覚えていない」とする説明に信憑性がないことを訴えたいとみられる。
加藤被告「どこから来たのか聞かれたので、『静岡から』と答えました」
検察官「ほかには覚えていますか」
加藤被告「後は覚えていません」
検察官「店員のことについて掲示板に書き込んだことは覚えていますか」
加藤被告「覚えていませんが、見ています」
加藤被告は平成20年6月6日、掲示板に「店員さんは良い人だった」と書き込んでいた。
検察官「店員に『ナイフは両刃じゃないとダメ』と話しましたか」
加藤被告「話をした覚えはないです」
検察官「6月7日の午前中に秋葉原に行って、パソコンなどを売り、午後にはインターネットカフェからネットでレンタカー店のトラックの空き状況を調べましたね。これまでに、友人の引っ越しを手伝うことなどが理由と話していましたね? 理由はそれだけですか」
加藤被告「事件に使うことを意識したと考えるのが自然だと思いますが、記憶にはありません」
検察官「その後、静岡・沼津のレンタカー店に行きましたね?」
加藤被告「ネットでは、だいぶ前から予約を入れる必要がありましたので、直接店に行きました」
検察官「店で『4トントラックを貸してほしい』と言いましたか」
加藤被告「はい」
検察官「結局、2トンになりましたね?」
加藤被告「はい」
このトラックが事件に使われることになる。
検察官「翌日、友人にトラックを見せに行きましたね」
加藤被告「はい」
検察官「いつごろ、友人から引っ越しの手伝いを頼まれたのですか」
加藤被告「覚えていませんが、かなり前から出ていました」
検察官「時期は分かりませんか」
加藤被告「はい」
検察官「トラックを見せた友人と、引っ越しの手伝いを頼まれた友人は同じ人ですか」
加藤被告「はい」
検察官「友人がトラックの写真を撮りたがったとき、『撮ってもいいけど、メールで写真を送信するのは翌日以降にしてくれ』と話していましたね」
加藤被告「はい」
検察官「どうしてですか」
加藤被告「メールで(写真画像を)送信した記録が残ると、友人が捜査の対象になると思いました」
加藤被告は身じろぎせず、声色に変化はない。淡々としたやり取りが続く。