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(7)姉「お墓ができたらハンマーで壊しに行きます」

東城瑠理香さんとの思い出が蘇り、姉は涙が止まらない様子だ。男性検察官の問いに、東城さんの無念の思いを代弁した。

検察官「瑠理香さんは(星島被告に殺されたことを)怒っていると思いますか」

証人「絶対に怒っています」

検察官「星島被告のことを許すと思いますか」

証人「絶対に許さないと思います」

検察官「星島被告からこれまで、弁償の申し出や謝罪はありましたか」

証人「ありません」

検察官「(事件当日の平成20年)4月18日にあなた方が瑠理香さんのことを心配し、帰りを待っているとき、星島被告は918号室に瑠理香さんを連れ込んでいました」

証人「…あんなにそばにいたのに、全然気づけなくてごめんね」

検察官「翌19日にお母さんが来たころ、星島被告は瑠理香さんの右腕を切り落としていました」

証人「すごく痛かったと思います」

検察官「あなた方ご家族はどんな思いでいたのですか」

証人「『こちらは何も悪いことをしていないから、神様は助けてくれる、瑠理香は見つかる』と思っていたのに、こんなことになっちゃって…。もう何も信じられない」

淡々とした口調だが、近くにいながら妹を救えなかった悔しさをにじませる。

検察官「あなたが瑠理香さんの帰りを待つ間、星島被告が(遺体の)解体を進めていたことについて、どう思いますか」

証人「私たちは瑠理香を待っている間、不安で…。犯人は自分の思いだけで、着々と瑠理香(の遺体)を捨てていったんだと思うと、悔しくてたまりません」

検察官「瑠理香さんの死を知ってどう思いましたか」

証人「本当に申し訳ないと思いました」

検察官「一生、心残りになりますか」

証人「はい」

検察官「瑠理香さんの灰がゴミの埋め立て地にあるということについてはどう思いますか」

星島被告は東城さんの遺体の一部を、現場近くのマンションのゴミ捨て場に捨てている。

証人「家庭ゴミとかと一緒にどこかの埋め立て地にあるなんて…。かわいそう過ぎます」

検察官「星島被告が犯行後、風俗に行っていたことについてはどう思いますか」

証人「なんで私たちがビビりながら生きていたのに…。犯人はのうのうと生きていて、不公平だと思いました」

検察官「星島被告は拉致する相手について『誰でも良かった』と言っています」

証人「なんで、こんなにこだわりがあって生きている瑠理香が、誰でもいいという理由で殺されなければならなかったのか…。もう訳が分かりません」

検察官「星島被告のターゲットは瑠理香さんではなくあなただったということですが?」

証人「瑠理香が…。『私が代わりに逝くから、姉ちゃん幸せになってね』と思ったんだと思います」

思いやりのある女性だったという瑠理香さん。姉は声を詰まらせた。ここで、法定内の大型モニターに瑠理香さんの「お別れの会」の写真が映し出された。花で囲まれた祭壇には、笑顔の瑠理香さんの遺影が飾られている。傍聴席のあちこちから、すすり泣きの声が聞こえる。

検察官「これからまた4月になります。4月の雨の日、あなたはどうなると思いますか」

証人「あの日(事件当日)はすごい雨だったので…。雨が降ると瑠理香が泣いてるんだと思って、おかしくなると思います…」

検察官「今後、あなたはどういうときが辛いのでしょうか」

証人「一緒にお風呂に入っていたので…。お風呂に入るときとか、どこか街を歩くときとか、瑠理香の友達が遊びに来てくれたときとか…」

検察官「誕生日はいつも家族と一緒に祝っていましたね。これからの誕生日はどうなると思いますか」

証人「いつも瑠理香やいとこがケーキやプレゼントを買ってきてくれていました。去年(の誕生日)は瑠理香が見つからなくて不安でした。今年もきっとそうだと思います。うれしいはずの誕生日が悲しい思い出になると思います」

検察官「今も瑠理香さんの死を信じられないでいるのですね」

証人「はい」

検察官「今あなたがこうしていられるのは、自分が強いからだと思いますか」

証人「いいえ、違います。瑠理香の死から逃げているからだと思います」

検察官「瑠理香さんのいないこれからの人生はどうなると思いますか」

証人「これから先、心から笑えないと思います」

続いて検察官は、星島被告への処罰感情についても尋ねた。

検察官「星島被告にはどのような刑を与えてほしいですか」

証人「死刑です」

検察官「もし無期懲役だったら納得できますか」

証人「納得できません」

検察官「なぜですか」

証人「なんで瑠理香がいなくて犯人が生きているの」

検察官「星島被告が死んだら許すことはできますか」

証人「死んでも許せません。お墓ができたらハンマーで壊しに行きます」

はっきりとした口調で、星島被告への憎しみを語った。検察官が「最後に言いたいことがありますね」と尋ねると、姉は手元の紙を読み上げ始めた。

証人「今、人を殺そうとか、誰かを犯そうとか、犯罪しようとしている人、どうか思いとどめてください」

大きな声で読み上げるが、ところどころ涙まじりで語尾がふるえる。

証人「被害者や家族だけでなく、たくさんの人が傷つきます。たった1人の行動で、どれだけの人が傷つくと思いますか。病気とかで生きたくても生きられない人もいるのに、せっかく命があるなら、自分の欲望をかなえようとするんじゃなくて、周りの人を幸せにする道を選んでほしい。そうしたら何かが変わって、自分も幸せになれると思う」

傍聴席の遺族も、姉の必死の訴えに涙をぬぐう。最後に一層声を張り上げ、締めくくった。

証人「どうか幸せになりたいと思ってる女の子の、夢とか未来とか希望を奪わないでください!」

裁判長が「お疲れ様でした」と声をかけると、姉は一礼して傍聴席へ戻った。それを見届けると、裁判長は「10分間の休憩を取ります」と告げた。

⇒(8)星島被告「遺族が『この手で殺したい』と思うのは当たり前」