(1)“スパルタ”の父「お前が一番だらしない」と歌織被告に
25日午前9時58分、三橋歌織被告の第8回公判が、予定より2分早く東京地裁104号法廷で始まった。歌織被告は今回も、肩の下までまっすぐに髪の毛を下ろし、ピンクのVネックのニットに、白いパンツを身に着けている。
今回行われるのは、歌織被告と被害者の祐輔さんのそれぞれの父親に対する証人尋問。まずは弁護側の情状証人として歌織被告の父親が入ってきた。紺色のスーツに白い短髪。がっちりした体形が印象的な証人は、傍聴席の遺族に向かっておじぎをした。
歌織被告は被告人質問で、父親から『(実家に)居場所はない』と言われたと述べている。弁護側は、実家という逃げ場からも拒絶された歌織被告が、祐輔さんの暴力で精神的に追い詰められていったとする主張に沿った質問を展開していくとみられる。
弁護人「祐輔さんに対する気持ちは?」
証人「本っ…当に申し訳ないの一言でございます。お互いの両親がいながら、解決できなかったことは非常に悔いが残っている」
弁護人「祐輔さんの両親に対しては?」
証人「本当に申し訳ない。それ以上何もない」
大きな声ではきはきと答える証人に対し、歌織被告は無表情で、にらみつけるような視線を送っている。弁護側はまず、証人の簡単な経歴を確認する。大卒後にサラリーマン生活を10年ほど送ってから起業したという。学生時代から野球をしており、高校の野球部監督の経験もあるという。
弁護人「歌織被告は県立の女子高に通っているが、だれが進学先を決めた?」
証人「私」
弁護人「歌織被告も希望していた?」
証人「そうでもなかった」
弁護人「別の進学希望先を聞いたときは?」
証人「『だめだ』と言った」
弁護人「どうして行きたいか聞いた?」
証人「聞かなかった」
弁護人「歌織被告の大学についてはどう考えていた?」
証人「女子大と決めていた。東京の外国語学部ということで」
弁護人「歌織被告も希望していた?」
証人「そうでもなかった」
弁護人「場所は?」
証人「神戸や岡山と言っていたようだ」
弁護人「それを聞いて何と?」
証人「『だめだ』と言った」
弁護人「なぜ行きたいか聞いた?」
証人「聞かなかった」
短いやり取りだが、厳格な父親ぶりが早くも浮かんでくる。歌織被告は父の『希望』通り、東京の女子大の外国語学科に進んだ。
弁護人「大学を卒業してからのことは、どんな話をしていた?」
証人「『社会人になったら一切面倒はみない』と」
弁護人「いつから話していた?」
証人「中学生ぐらい」
弁護人「子供のころのしつけは?」
証人「相当厳しくやった。ひっぱたくようなこともあった」
証人は歌織被告の結婚を事前に聞いておらず、激怒する。その後は連絡が途絶えたが、平成16年5月ごろ、祐輔さんからの暴力から逃れるため、歌織被告は新潟の実家に帰った。
弁護人「なぜ帰ってきたと言っていた?」
証人「『暴力を受けている』と」
弁護人「跡を見たか?」
証人「顔面や右腕、左の横っ腹に青いあざがいっぱいあった」
弁護人「結婚はどうすると?」
証人「『とにかく離婚したい』と言っていた」
弁護人「何日ぐらいいた?」
証人「4、5日ぐらい」
弁護人「東京に戻る前日に話をした?」
証人「はい」
弁護人「歌織被告の様子は?」
証人「泣いていた」
弁護人「証人は落ち着いていた?」
証人「私の方が興奮していた」
弁護人「どういう言葉をかけた?」
証人「『あれだけ反対した結婚で、揚げ句に暴力沙汰(ざた)で戻ってくるとはどういうことだ。お前が1番だらしない』」
弁護人「『自立しろ』と言ったことについては?」
証人「『自立どころか、問題にならない。このザマは何なんだ』と非常に怒った」
弁護人「だれがどう悪いと言った?」
証人「『1番悪いのはお前だ』と怒った」
歌織被告はピンクのハンカチで目をぬぐった。
弁護人「歌織被告は考えを言っていたか?」
証人「泣いてばかりだった」
弁護人「証人はずっと責めていた?」
証人「そうです」
弁護人「子供のころからそうだったのでは?」
証人「そうです。そういう形できた」
弁護人「歌織被告がどういう気持ちで戻ったか考えなかったのか?」
証人「そのときは考えなかった」