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(4)「都合の悪いことだけ忘れたふり」憤る豪憲君の父

午後1時15分、鈴香被告は法廷に戻ってきた。被告人質問を終え、心なしか落ち着きが戻ったように見える。午後は米山豪憲君=当時(7)=の父、勝弘さんに対する証人尋問が予定されている。竹花裁判長が、傍聴席にいた勝弘さんを法廷へ呼び寄せた。

勝弘さんは黒いスーツ姿。右手の鈴香被告を見据えながら、証言台の前に立ち、宣誓書を読み上げる。勝弘さんが席に座ると、鈴香被告は勝弘さんに向かって深く一礼した。

検察官の1人が立ち上がり、質問を始める。

検察官「豪憲君が亡くなったのは平成18年5月17日でしたね。それから1カ月後、被告人が犯人と分かった。今日の時点で2年半がたちますが、そのときの気持ちと今の気持ちに変わりはありますか?」

証人「ありません」

検察官「できるできないにかかわらず、希望が1つかなうのなら、何を望みますか?」

証人「もう一度、豪憲に会いたい。それだけです」

声を震わせる勝弘さん。

検察官「豪憲君は無邪気でかわいい子でした。どういうときにそういったことを感じましたか?」

証人「豪憲は無邪気で、いつも笑顔をしていたという記憶があります」

検察官「同じ年齢の子を見ると、どんな思いがこみ上げてきますか?」

証人「毎日思うのですが、豪憲が生きていたら、今ごろどんな子になっていただろうと…その姿が見たかったです」

堪えきれなくなったのか、傍聴席からは、胸に豪憲君の遺影を掲げながら聞き入る母、真智子さんのすすり泣く声が聞こえる。

検察官「よく一緒にお風呂に入ったということですが、どんなことを思ってましたか?」

証人「兄弟一緒に入っていたのですが、豪憲は細く、弱々しいという感じの子供でした。その細く弱々しい首を、被告がひもで、目いっぱい締め上げたということを思うと…気がおかしくなりそうです」

声を絞り出す勝弘さん。

検察官「初公判からこれまですべての公判を傍聴してきましたね?」

証人「はい」

検察官「豪憲君殺害の具体的な方法も状況も分かってますよね?」

証人「はい」

検察官「どう思いましたか?」

証人「執拗(しつよう)に首を絞められ、どれほど苦しんだか、その無念は察するにあまりあります」

検察官「豪憲君は相当な時間締め上げられ、命を失っていますが、被告が少しでも思いとどまれば、死ぬことはなかった?」

証人「一瞬の出来事ではなく、そうとう長い時間絞めていました。やめられたはずなのに…確信犯であり、許すことはできません」

検察側は、さらに幼少時の体験で情状を得ようとする弁護側の姿勢についても言及する。

検察官「被告は父親から理不尽な扱いを受けたり、いじめられたと言っていますが?」

証人「30歳過ぎた成人がことさら同情を買うようなことを言っているが、生い立ちに何の関係があるのか。1審の判決では斟酌されているが、理解できません」

そして、控訴審での鈴香被告の発言に憤る勝弘さん。

検察官「(控訴審で)鈴香被告は豪憲君の殺害場面を覚えていない、動機も覚えていない、と言っているが?」

証人「自分に対し、都合の悪いことだけを、ことさら忘れたという風に言っているが、普通、どう考えても理解できません」

検察官「反省は見られますか?」

証人「2年半近く経過したので記憶が薄くなったというが、では、この2年半何を考え、何を償おうとしたのか理解できない」

勝弘さんの鈴香被告に対する強い怒りは、次々と言葉になって現れてきた。

証人「豪憲を殺したことは、取り返しのつかないことであり、許されないことだと思う」

「被告に更生の機会が与えられる世の中であるならば、世の中に絶望するし、信じられない」

最後に、検察側は、改めて裁判所に何を求めるか勝弘さんに問うた。

検察官「当然、死刑を求めますか?」

証人「私たちは、当然、命を持って償うべきだと思います」

力を込めて、こう話した勝弘さんは、鈴香被告に一度も目をくれることなく、証言台を後にした。

その後、特に補充質問もなく、公判は終了。次回第4回公判は、12月17日午前10時から。証拠調べなどが行われる予定という。

⇒控訴審 第4回公判