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(8)「誘導じゃないか」「とんでもない!」捜査員証言

法廷では、彩香ちゃん事件への関与を認めた際の取り調べの場面が続いた。証人として立つ秋田県警捜査1課の元捜査員は、鈴香被告が当初、彩香ちゃんの事件に関係し、彩香ちゃんが大沢橋から落ちたことまでは認めたものの、殺意を否定していたと証言。「欄干に乗せたことが思いだせない」と話していたと説明する証人。弁護側は当時の状況を詳細に聞こうとした。

弁護人「(鈴香被告が自供を始めたことを)上司に報告は」

証人「当然している」

弁護人「その中で、『署名、押印させろ』といわれたか」

証人「いいえ」

弁護人「(調書の)紙ができあがって、署名押印してとなったのか」

証人「自分の今の心境ということだったので、それを(その後行われる検事調べで)検事さんに見てもらおうと思った」

その後、弁護側は、鈴香被告が彩香ちゃんを落とした際の言葉の使い方について鋭く追及する。調書が鈴香被告の言葉ではなく、証人の作った言葉で作られているのではないかと聞きたいようだ。

弁護人「(突き落とすという表現を使った調書の後で)今度は突き落とすという表現をしなかった。この表現のまま『突き落とす』で作ろうとは思わなかったか?」

証人「(そのときは)突き落とすという表現ではなかったと思う」

弁護人「(証人が作った調書で出てくる)『おっつける』という表現は、検察官調書では出てこない。本当に言ったのか」

証人「本当に言った」

弁護人「誘導したんじゃないか」

証人「そんなことはしていない」

弁護人「(調書にあるように)『殺そうと思って振り払う』じゃなくて、反射的に振り払ったじゃないのか」

証人「違う」

弁護人「本当に言ったのか」

証人「こういう重要な事件なので、任意性が疑われるようなことはしない」

弁護人「(鈴香被告を)だまそうとしたのではないか」

証人「とんでもない!」

さらに追及する弁護側。今度は調書の中で、藤琴川の川幅や欄干のサイズなどで具体的な数字が書いてあることに疑念を示し始める。

弁護人「大沢橋の欄干のサイズが180センチとか、藤琴川の川幅が60メートルぐらいとか、ほんとうに言ったのか」

証人「はい」

弁護人「本当か」

証人「鈴香被告は以前、サクラマスを(藤琴川に)見に行ったことなどを話していたことがあり、そのときのことを思いだして言っていたのだと思う。それで数値を言ったのだと思う。それに、そこには『○メートルぐらい』という数値で入っていると思うが」

話題を転換する弁護側。今度は、鈴香被告が腰が痛いと訴え、床に寝ころんだという昨年7月23日の取り調べでの出来事に移る。弁護側は、2日ぐらい前から鈴香被告が腰の痛みを訴えていたと指摘。しかし、証人はそのことを「知らなかった」と答える。

証人は、調書の読み聞かせをする際、いったん容疑者に調書を閲読させた後、容疑者の脇に立ち、容疑者に調書の内容を目で追わせながら読み上げるのだという。

弁護人「鈴香被告は、調書を閲読するとき、立ったり座ったりしながら読んでいたのか?」

証人「はい」

弁護人「体調不良でやめようとかは言ったのか?」

証人「そうだ」

弁護人「上司に『(房に)戻そうか』などと相談したりしなかったのか?」

証人「私は(すでに被告に)休ませようと言っていた」

鈴香被告は、その後10分ぐらい、床に寝転がったという。

弁護人「あなたは、休ませようと言っていたというが…」

証人「本人が『この方がいいんだ』と一点張りだった」

弁護人「痛そうに見えたか?」

証人「見えなかった。仮病かと思った」

弁護人「どこを見てそういうのか?」

証人「顔色を見て」

弁護人「顔色のどこを?」

証人「いつも(痛みを訴えているとき)のような悲壮な顔ではなかった」

弁護人「本当に痛かったのなら、任意性が吹き飛びかねないと思わなかったのか」

証人「だから、戻そうとしていた」

この取り調べがあった後、鈴香被告と接見した弁護側は、検察側に対し、問題がある取り調べがあったと抗議したという。その夜に再度行われた取り調べで鈴香被告に抗議の話をしたかと問う弁護側。「そんな(抗議されるような)事実はないから話もしなかった」と話す証人。

弁護側の質問が終わると、検察側の再質問が始まった。検察側は、改めて鈴香被告の自殺未遂の真相が聞きたいようだ。

検察官「取調室の中であなたは、(鈴香被告が)たばこを何本吸ったか確認し、箱の中に何本戻したか確認していたという」

証人「はい」

検察官「(鈴香被告は)取調室からひそかに4本持ち出して飲んだというのだが?」

証人「警察の側から言えば考えられない」

検察官「さらに、ボディーソープも飲んだと言うが?」

証人「全く考えられない」

⇒(9)「夜に子供を欄干に乗せるのは不可解」捜査員証言