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(11)「ごめんなさい…」遺体の写真、指でなぞった

畠山鈴香被告の「休憩を拒絶された」という証言を否定した証人の検事は、取り調べ再開後の様子について証言を続ける。

証人「(アリバイのある)交際相手が(米山豪憲君を)殺害したと思う理由について質問すると、被告は両ひじを机の上にのせ、体を少し横に傾け、警護の警察官が体の位置を元に戻させた。この質問をすると、体を傾けるというやり取りが続いた」

検察官「体が傾いたのは体調が悪いからだと思ったか?」

証人「追及に耐えられなくなり、取り調べから逃げたがっていると思った」

鈴香被告に被告人質問で、「(弁解を聞く前)席に座ったときにいきなり『バカヤロー』と怒鳴られた」と批判されたことについては、「そんなことはない」と語気を強めて否定した。

検察官「弁解を聞く前に怒鳴ることは? 検事として考えられるか?」

証人「考えられない。警察で否認しながら、検事に正直に話す人はいる。供述の不合理性を聞くと、認める人もいる。信頼関係が崩れるから、バカヤローは言わない。怒鳴ってもいない」

検察官「休みの求めを拒絶し、鈴香被告が倒れそうになり、警護の警察官に戻させたことはあるのか?」

証人「拒否していないし、倒れそうになったというのはどういう状況を指しているのか分からない」

鈴香被告はその後の取り調べで豪憲君の殺害を認め、「彩香がなぜいないのか、豪憲君が彩香じゃないことが切なくて殺した」などと動機を語っていたが、証人は「切ないという理由で人を殺せるのか。信用性がない」と追及を続けていく。昨年4月9日に彩香ちゃんが行方不明になった時間帯のアリバイについても問いただしたが、「思い出せない」と繰り返した。

鈴香被告に変化が訪れたのは6月29日の取り調べに話が及んだときだった。

証人「鈴香被告の母親が『豪憲君の両親に申し訳ない。鈴香の言っていることは通用しないのは分かるが、私は娘を支えていく』と言っていたことを伝えていた。鈴香被告は泣きながら、『ありがとうございました』と言っていた」

証人の言葉に鈴香被告は表情を変えなかったが、まばたきが多くなった。

証人「被告は『豪憲君の冥福(めいふく)をいのるために、4月9日のことを思いだす。怖いけど、何とかします』と言っていた。反省が出てきたのかなと思った」

この日から、鈴香被告は「冥福をいのりたい。反省したい」などと、豪憲君の遺体の写真を見たいと訴え続けた。

証人「精神的なショックで、体調が悪くなり、取り調べに支障が出ると思って断り続けた」

それでも引き下がらない鈴香被告。証人は同僚の検事にも相談のうえ、7月1日ごろに、「事件に向き合えるなら」と写真を見せたという。

証人「このときは、どのように憲憲君の首を絞めたのかを追及していた。写真の何枚かにひもの傷があり、それを見せると被告の記憶が引っ張られると思い、その写真は見せなかった」

食い入るように写真を見た後、泣き出した鈴香被告は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返したという。

証人「被告は、アリが食っている豪憲君の体を指でなぞっていた」

傍聴席に座っていた豪憲君の母親は思わず顔をふせ、隣にいた父親は口をぎゅっと結んでいた。

⇒(12)「向き合えるかもしれない…」 彩香ちゃんの殺意認めた