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(3)「精神的に追いやられていたと書いて」捜査員証言

娘の彩香ちゃん事件への関与について、認め始めた鈴香被告。しかし、この調書について鈴香被告は被告人質問で、「いやがるのに、地図を押しつけたり、耳をつかんでいる手を押さえつけ、無理やり署名させられた」などと供述していた。検察側はこの点についても、証言台に立った秋田県警捜査1課の元捜査員に確認していく。

検察官「こうした取り調べは行われたのか?」

証人「まったくない。ただ『彩香のことを思いだしたくない』と言って泣いたことはある」

この取り調べがあった7月6日の夜、鈴香被告は検察の調べに彩香ちゃんの殺害を認めた。翌7日の調べで、鈴香被告は証人にも、殺害の状況を話し始める。

証人「その日も鈴香被告は口が重い状態だった。それまでの捜査で、被告が彩香ちゃんの死を願うようなメールを送っていたことを知っていたので、心理を問いただした。すると、『彩香を邪魔に思ったことがある』と言った」

しかし、この日の調書読み聞かせで、鈴香被告は思わぬ行動に出た。

証人「調書は4枚半くらいあり、4枚くらい読んだところで、私が使っていたボールペンを左の上腕部に2回刺した」

検察官「止めたのか? けがの程度は?」

証人「止めた。出血はなかった。ボールペンのしんが皮膚に接触して赤くなっていた」

痛くないか、病院に行こうかと心配した証人に対して、鈴香被告は「大丈夫だ、行きたくねぇ」と答えたという。

検察官「なぜそんなことをしたと思ったか?」

証人「彩香ちゃんを殺害したことで自責の念にかられ、興奮して自傷したと思った」

たばこを吸わせるなどして休ませた後、再度読み聞かせをすると、鈴香被告は今度は素直に署名した。取り調べにあたる警察官はその後、机の上にとがった物を置かないなど、注意をするようになったという。

検察側の質問は、彩香ちゃんを殺害したにもかかわらず、自ら必死に事件だと主張し、警察に捜査を求めたり、マスメディアの取材に応じたりするという鈴香被告の不自然な行動に移る。

検察官「被告はどのように説明したのか?」

証人「彩香ちゃんの遺体が発見され、(鈴香被告の)母親が半狂乱になった。『川に行くようなワラシ(子供)でね。殺された、事件だ』と言い出し、親戚(しんせき)も同じように言い出した。被告も『後戻りできない』と同調するようになったと説明した」

検察官「豪憲君の殺害の動機については?」

証人「警察で彩香ちゃんの捜査をしているように見えなかった。彩香ちゃんを無視して忘れようとしていると考え、住民や警察に認めてもらいという気持ちになった。子供が被害になる事件を起こそうと思い、豪憲ちゃんを選んで事件を起こしたと」

検察側は彩香ちゃんの事件で再逮捕されてから、鈴香被告の供述があいまいになっていくことについて質問。死刑を意識した鈴香被告が、供述を後退させていく様子をあぶり出していく。

検察官「供述は変わったのか?」

証人「若干、あいまいになった。『彩香を欄干に乗せたときに殺意があったか分からない』『欄干を乗せたときの状況が分からない』と言い出した」

検察官「完全に殺意を否認していた?」

証人「自分が関係しているとはいっていた」

検察官「何で彩香ちゃんの事件で逮捕されたときに供述内容が後退したと思う?」

証人「被告は2人殺害したことへの処罰をおそれ、あいまいな供述をした。『自分はどうなる』『生きて償いたい』『弁護士、検事にどういう処分かを聞いても教えてくれない』と話していた」

鈴香被告は7月21日、警察の取り調べに再び彩花ちゃんへの殺意を認めるようになった。ただ、調書への署名の段階で渋り出したという。

検察官「なにか訂正を求められたか?」

証人「『精神的に追いやられていたことが背景にあることを書いてほしい』といった」

検察官「何て答えた?」

証人「あとで詳しく(調書を)取ると。その時点で事件について思いだせない部分があると言ったので、あわせて聞くと言った」

検察官「『殺す』という表現を後の調書で訂正するからといって署名をさせたか?」

証人「それはない」

⇒(4)「いじけてごめんなさい」捜査員証言