第23回公判(2012.2.17) 【被告人質問】

 

(3)過去の交際よどみなく 月収150万円は「使い切る」 自分で化粧は一度もせず

木嶋被告

 首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけて男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の第23回公判(大熊一之裁判長)がさいたま地裁で続いている。

 1回目の休廷をはさみ、弁護側の被告人質問が再開。審理再開5分前に再び入廷した木嶋被告は、落ち着いた様子でファイルに目を落としている。

 証言台へ促されると、いすに深く腰掛け、ひざの上に手を置いて前を見つめた。

 裁判官たちが入廷し、再び審理が始まる。弁護人は平成10年ごろに木嶋被告が立ち上げた愛犬サークル「カインド」について尋ねていく。

弁護人「どういったサークルでしたか」

被告「飼い主たちでペット同伴カフェで集まったり、飼い方の勉強会をしていました」

 木嶋被告は平成8年ごろから、シーズー犬2頭を飼っていたという。

弁護人「なぜカインドを作ったのですか」

被告「私自身、東京に出てきて友達を作れませんでした。犬を通じて、他の人と仲良くなれたらなと」

 カインドはやがて数百人規模に会員が増え、利益を上げるようになっていく。

弁護人「なぜ利益があがるのですか」

被告「子犬の斡旋(あっせん)をするようになったからです。ホームページを作ってから、ブリーダーからもらった子犬の仲介をするようになりました」

 手数料は1匹につき、3万円ほど。年間数百万円の純利益があったという。木嶋被告はカインドで収入を得るかたわら、愛人契約やデートクラブで知り合った男性から、現金をもらうことも続けていた。

 弁護人の質問は、愛犬サークル「カインド」を設立した平成10年ごろの木嶋被告の男性関係について移っていく。

弁護人「▲▲さん(法廷では実名)とは、カインドを通じて知り合ったのですね」

被告「そうです。私より2歳年下だったので、当時、20歳か21歳ぐらいだったと思います。上智大の学生でした」

 この男性と恋人関係になった木嶋被告は、それまで付き合っていた男性、●●さん(法廷では実名)と別れる。男性は神奈川県在住。木嶋被告よりも10歳年上で、建設会社に勤務していた。

弁護人「●●さんとは半同棲し、お互いの家族を紹介するほどの仲だった。●●さんはどこが好きだったのですか」

被告「うーん、まじめでやさしい、実直なところです」

弁護人「どこで気持ちが変わったのですか」

被告「東京でいろんな男性と会うようになって、●●さんに物足りなさを感じるようになりました」

弁護人「それで、▲▲さんと恋人関係になった。▲▲さんはどんな人でしたか」

被告「とても賢くて、うーん、背が高くて…すてきな人でした」

弁護人「容姿のきれいな人が好きですか」

被告「特にそういったわけじゃないんですけど、東京に来てから、(容姿が)悪いよりは、いい方がいいな、と」

弁護人「▲▲さんとは結婚を考えなかったのですか」

被告「同世代には魅力を感じないので、結婚相手とは考えられませんでした」

 弁護人は、木嶋被告の男性関係について、さらに質問を重ねていく。赤裸々な質問でも、木嶋被告は弁護人の顔を見つめながら、よどみなくはっきりとした声で答えていく。

弁護人「初めての性交渉は?」

被告「高校時代です」

 相手は当時40代の男性。知り合いの家から通帳と印鑑を持ってくるように指示した人物だという。被害額は700〜800万円で木嶋被告の父親が全額弁済したという。

 質問は再び愛犬サークル時代に戻る。当時の仕事や職業について、弁護人が尋ねていく。

弁護人「ピアノ講師の仕事は、そのときも続けていたのですか」

被告「平成13年春、(東京都内の)目黒から板橋に引っ越すとき、生徒さんにはやめてもらいました」

 木嶋被告の収入は、妹と都内で同居を始める13年まで愛人契約やデートクラブで男性から肉体関係の報酬として受け取っていた現金や、子犬の仲介手数料が中心だったようだ。

弁護人「11年12月ごろの1ヶ月の収入は」

被告「平均150万円ぐらい、常に出ていました。一切貯金はしていません」

弁護人「競馬は?」

被告「ドッグショーに出るようになってから、やめました。愛人契約をしていた方が馬を持っていたので、大きなレースの時に招待されることはありましたけど」

 カインドを立ち上げてからギャンブルをやめたという木嶋被告だが、それでも月に稼いだカネをすべて使い切っていた。

被告「競馬に使わなくなった分、デパートでのお買い物に使うようになりました。日常に使う雑貨や衣服など、これまでよりよいものを買うようになりました。20代の時は、好きなブランドのバッグをそろえたりしました」

弁護人「他には」

被告「宝石に興味はないんですけど、アクセサリー…。ブレスレットとかは、たまに買ってました」

弁護人「あなたは料理が好きだそうですね。食器とかはどうでしょう」

被告「愛人契約をしていた方と食事に行くときは高級な店でしたので、そこで教えてもらったブランド食器を買いそろえていました。1枚数万円…全部そろえると、数十万円ぐらいになることもありました」

 木嶋被告の浪費はモノだけではなかった。

弁護人「買い物以外には何か使っていましたか」

被告「エステですとか、整体ですとか、美容とか健康関係に使っていました。エステは1回最低1万円はかかっていました」

弁護人「どれぐらい行っていましたか」

被告「10代のころから通っている(東京都)新大久保の韓国エステは10日に1回ぐらい。それは30代ぐらいまで続けていました」

 金銭に不自由のない生活をしていたはずの木嶋被告。しかし、たびたび窃盗容疑で摘発されるようになる。

弁護人「平成11年1月、万引で(警視庁)目黒署に検挙されていますね。このときのことを覚えいますか」

被告「全く覚えていません。警察から母に連絡がいって、母から『どうしてあなたはお化粧もしないのに、化粧品を盗んだの』と電話で聞かれて、初めて化粧品を盗んだんだなと…」

弁護人「あなたは化粧をしたことはないんですね」

被告「自分でお化粧をしたことは一度もありません」

 法廷ではうっすらと化粧しているようにも見える木嶋被告。白いカーディガンに黒いスカート姿で上品な雰囲気を醸し出している。

弁護人「あなたはお金にも困っていなかったし、化粧品も必要としていなかった。なぜ盗んでしまったのですか」

被告「うーん…ちょっとわからないですね」

 他人事のように、首をかしげる木嶋被告。平成12年3月にも埼玉県警新座署に摘発される。

被告「近くに、▲▲くんの住まいがあって。本屋で本を読んでいるとき、▲▲くんから携帯がかかってきて、本を持ったまま出てしまったんです」

弁護人「平成13年4月にも、(警視庁)高島平署で窃盗容疑で検挙されていますね。覚えていますか」

被告「(東京都)板橋のマンションの近くのATMでお金をおろそうと思って。操作する前にお金が入っていたので、私が取ったという疑いでした」

 次々と明らかになった摘発の過去。木嶋被告は淡々と当時の状況を説明した。

⇒(4)愛人契約リセットで収入減も生活変えられず