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(4)粘着テープにからまる髪をハサミで切断「リンゼイさんは悲しそうな顔」

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の論告求刑公判は、右陪席に座る男性裁判官の質問が続いている。

市橋被告は証言台に座り、じっと前を見すえたまま、ゆっくりだがはっきりとした口調で質問に答えていく。法廷の両サイドに設置された大型モニターには、犯行現場となった市橋被告のマンションの間取りが映し出されている。

裁判官「リンゼイさんを4・5畳の和室のどこに、どのように運びましたか」

市橋被告「4・5畳の和室のどこと指し示すことはできません。(図面の)『毛皮様のもの(毛皮のようなもの)』と書かれたところに、抱きかかえたリンゼイさんを置いたと思います」

裁判官「あなたの部屋から切断された45センチの結束バンドが見つかっていますが、これはあなたが被害者の手足を拘束したもので、被害者の求めに応じて切断したものということですか」

市橋被告「そうです」

裁判官「あなたの部屋には切断された30センチの結束バンド10本が見つかっていますが、何に使用して、なぜ切断したものですか」

市橋被告「30センチの結束バンドは手首や足首にはめようとして使っていたものです」

ここで、市橋被告はしばらく考え込むように数十秒間黙り込み、そしてこう続けた。

市橋被告「45センチの結束バンドがなくなったと思い、30センチのものをどうにかしてはめれないかと思い、輪っかにしてみたりしたことはあります。なぜ、切っているかについては正確に言うことはできません」

「というのも、輪っかにしたのは26日の目が覚めた後切っているはずだからです…。そのとき様子ははっきり覚えていません」

続いて、男性裁判官は市橋被告がリンゼイさんの頭部に巻いた粘着テープについて質問した。

裁判官「粘着テープについて1点だけ尋ねます。口の周りをぐるっと巻くようにして巻いたテープはなぜ外そうと思ったのですか」

市橋被告「口から頭を巻くようにテープを巻いた後、リンゼイさんが口をもごもごし、唾液でテープがすぐに外れました。それをみてすぐに外そうと思いました」

裁判官「粘着テープはうまく外れましたか」

市橋被告「できませんでした」

裁判官「どうやって外したんですか」

市橋被告「頭に着いていたものを外そうとするとリンゼイさんが『痛い!』と言いました。そこで粘着テープからはがれる髪の毛は1本ずつ外しました。からまってどうしても外れない髪の毛は台所からキッチンばさみで1本ずつ切りました。リンゼイさんは悲しそうな顔をしています…。そうやってリンゼイさんの髪の毛を外しました」

髪の毛の外し方について、市橋被告の詳細な説明を女性通訳が翻訳し始めると、リンゼイさんの母、ジュリアさんはおもわず両手で顔を覆った。父のウィリアムさんは肘をつき、一段と険しい表情になっている。

裁判官「4・5畳の和室には被害者の血液が付着していますが、思い当たることはありますか」

市橋被告「私は先ほど4・5畳の和室に運んだときに毛皮様のものの所に置いたと言いました。そのとき身体のどこかから出血していたのを私は見ていません。出血の痕があったと言われましても、そのときに付いたものか、いつ付いたものかは正確にはお答えできません」

最後に堀田真哉裁判長が質問を始めた。

裁判長「私の方から尋ねます。被害者の立場にたって考えることが不足していると言いましたが、具体的にどの点が不足していると思いますか」

市橋被告「私は加害者です…。リンゼイさんのご家族が今まで私のせいでどれほど苦しんできたか、今もこれからもどんな気持ちで暮らしているか…。想像することができます」

証言台に座る市橋被告はうつむき、ときおり声を詰まらせながら堀田裁判長の質問に答える。膝の上に置かれた両手は小刻みに震えている。そして声を絞り出すようにこう続けた。

市橋被告「でも、加害者の私にはすべてが理解できないと思う。リンゼイさんの苦しみについて想像すれば苦しくなる…。息ができなくなる…。リンゼイさんはもっと苦しかったと思う。リンゼイさんのご家族のことを考えると震えて怖くなる。自分がどうすればいいか分からない。しかし、すべてを分かることは私にはできません。だから、昨日そういいました」

堀田裁判長の質問はこの1点のみで終了。検察側、弁護側に追加の質問がないかを確認し、被告人質問の終了を告げた。

市橋被告は証言台から立ち上がった後、堀田裁判長らに一礼し、前を見ながら後ずさるように被告人席に下がり、着席した。

裁判長「これで証拠調べを終了し、双方のご意見をうかがっていくことにします。午後は1時30分に開廷ということでよろしいでしょうか」

検察側、弁護側ともに小さくうなずき、休廷に入った。市橋被告は刑務官3人に囲まれ、やや足早に退廷していった。午後からは検察側の論告が行われる。

⇒(5)衣服をはさみで切断…リンゼイさん乱暴、検察が“再現”