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(11)「苦しんで考えながら私の残りの人生を終わらせる」 裁判長に頭を20秒下げ続ける

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の論告求刑公判。弁護側の最終弁論が終了し、ついに市橋被告の最終陳述が始まる。

堀田真哉裁判長が「それでは証言台の前に来てください」と市橋被告に起立を促した。証言台に立った市橋被告はこれまでの公判と同様、うつむいたままだ。

市橋被告「この裁判の裁判官の方々、裁判員の方々、そしてリンゼイさんのご家族の方に事件の日、何があったか、そして私がリンゼイさんを殺そうと思ったり、死んでもいいと思ったことがなかったことを、私がしたことは許されませんが、その2つはお話しすべきだと思ってお話ししました」

言葉を区切りながら、思いを述べた市橋被告。これまでの公判で主張したように、あらためて「殺意」がなかったことを強調した。

市橋被告「しかし、リンゼイさんに怖い思いをさせて、痛い思い、苦しい思いをさせて死なせてしまったのは私であり、リンゼイさんのご家族の人生、幸せを壊したのは私で、私が何をしようと許されることではありません」

市橋被告はこの日の被告人質問で、リンゼイさんの苦しみについて、逃走中に過酷な労働を続けた際に初めて考えたと述べている。

リンゼイさんの父、ウィリアムさんは背筋を伸ばして口を真一文字にした後、ため息をついた。

市橋被告「裁判の中でリンゼイさんのご家族の話を聞きました。(千葉大時代の恩師の)本山(直樹)先生や(大学の卒業研究の指導教授だった)◇◇先生(法廷では実名)の話も聞きました」

「私の中には問題があります。私の中は自分勝手であふれていて、自分勝手な行為をしておいて、責任に向かい合おうとしない。責任を取ろうとしない。その都度、その都度ごまかしていこうとすることがこの事件につながったと思います」

市橋被告は11日の被告人質問で弁護側から逃亡が2年7カ月に及んだ理由や事件を起こした理由を聞かれ、すでに同様の説明をしている。

市橋被告「私の問題点とリンゼイさんのご家族が、この先どんな気持ちで苦しまれ、生活されるのか、リンゼイさんが怖い思いの中で苦しんで亡くなられたときの気持ち、これらのことを苦しくても、これからずっと、考え続けていくことを、そのことをずっと苦しんで考え続けながら、私の残りの人生を終わらせること、それが私が犯した罪に対する償いと考えています」

市橋被告はたどたどしく言葉を続ける。証言台の前に立ち、こぶしを握りしめ、声を震わせた。

市橋被告「逃げている間、働きました。そのとき感じたことは人の命が一番ということです。本当に、本当に申し訳ありませんでした」

市橋被告はこう言い終えると、約20秒間にわたって堀田裁判長らに対して深々と頭を下げ続けた。リンゼイさんの父親のウィリアムさんらは体を震わせる市橋被告を淡々とした様子で見つめていた。

市橋被告が最終陳述を終えたことで、6日間に及んだ審理は結審した。裁判官と裁判員による評議を経て、判決は21日午後2時半から言い渡される。

市橋被告の退廷後、リンゼイさんの母、ジュリアさんは通訳を務めた女性とハグ(抱き合うこと)し、労をねぎらっていた。

⇒第7回公判