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(3)裁判員から逃亡生活に質問相次ぐ 千葉→青森→四国の遍路道 整形は自分でも

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の論告求刑公判。予定時間を約15分過ぎ、午前11時20分ごろに再開した。市橋被告に対する裁判所からの質問が始まる。

裁判長「続いて裁判所から尋ねます。何か質問はありますか」

堀田真哉裁判長は周囲の裁判員に顔を向けて尋ねた。6人の裁判員はいずれも男性で、傍聴席から向かって左から1〜6の番号が記されたカードを首から下げている。4番の男性裁判員が手を挙げた。

裁判員「逃走後、いつぐらいに整形を思い浮かべ、いつ行いましたか」

市橋被告「(思い浮かべた時期は)具体的には言えません。私は警察の方から逃げました。東北の青森まで逃げました。そして、リンゼイさんが生き返ると思い、四国の遍路道を回りました。途中、もう生き返らないと現実が分かり、働こうと思いました。顔を変えなければ、働けないと。いつごろかは正確に思いだせません」

通訳の女性が話す途中に市橋被告が口を挟んだ。何か付け加えたいようだ。

市橋被告「すいません。病院へ行って顔を変えようと思ったのはその通りです。警察の方から逃げたあと、自分で自分の顔を変えようと思って、自分でしています」

市橋被告は逃亡生活を記した手記の中で“自己整形”したことを詳述している。

市橋被告は事件後、東京・上野のコンビニエンスストアで裁縫道具を購入。近くの大学病院の障害者用トイレで鼻を細くするため、糸のついた針を鼻の左右に突き通し、鼻をチャーシューのように巻いたという。

裁判員「あなたは、事件までに人のためにボランティアや社会貢献したことはありますか」

市橋被告「ありませんでした」

続いて、3番の男性裁判員が質問した。

裁判員「リンゼイさんのご家族が来日して、自首を呼びかけたり、昨日出廷した(千葉大学時代の恩師の)本山(直樹)証人の自首の呼びかけは知っていましたか」

事件発生後、すでに市橋被告の犯行が明らかになり、指名手配されていたため、本来は自首でなく出頭という形になるが、法廷では「自首」という言葉が使われた。

11日の公判で、証人として出廷した千葉大大学院の本山名誉教授は市橋被告に空手を指導。本山さんは21年11月、自身のホームぺージに「市橋達也君に告ぐ」と題し、自主的な出頭を呼びかけている。

市橋被告「逃げている間にリンゼイさんのご家族が来日したニュースは聞きました。ご家族や本山先生が自首をすすめたことは聞きませんでした」

続いて6番の男性裁判員が、市橋被告の「逮捕される直前に死のうと思った」とする証言について質問した。

裁判員「どうして逃走を続けていたにもかかわらず、死のうと思ったのですか」

市橋被告「最後はもう、逃げることはできないと思いました。でも、まだ、逃げたかったんです。だったら、沖縄の島の小屋に戻って、あとは死ぬしかないと思いました」

市橋被告は、「死のう」と思った理由について言及しない。「逃げたい」と「死にたい」という思いの中で葛藤(かっとう)があったのだろうか。

裁判員「もう1点。逮捕されたときにどう思いましたか。逮捕されたときの気持ちを教えてください」

市橋被告「死に場所が変わっただけだと思いました」

続いて裁判所側で唯一の女性、左陪席の裁判官が強い口調で質問した。

裁判官「事件現場のマンションは、まだ戻れるようになっているんですか」

市橋被告「分かりません。しかし、出ることはありません」

「出る」とは刑務所から出ることを意図しているのだろうか。

裁判官「この法廷で、あなたは『被害者の気持ち』と何度も言っていますが、初めて被害者の気持ちを考えたのはいつですか」

市橋被告「リンゼイさんに悪いことをしたといつも思っていました。しかし、気持ちを考えたのは仕事を始めて、苦しかったときにリンゼイさんはもっと苦しかったんだと初めて考えました」

リンゼイさんの母、ジュリアさんは熱心にメモを取っている。右陪席の男性裁判官はリンゼイさんを結束バンドで拘束し、乱暴するなどした犯行当時の状況について質問した。

裁判官「結束バンドを収納棚から取り出したとき、顔はどちらに向いていましたか」

市橋被告「顔は棚を向いていました」

裁判官「あなたが、被害者の手首や足首を拘束した場所は具体的にはどこですか。見取り図を示しますので指でさしてください」

市橋被告「ここです」

市橋被告は玄関と廊下の境目にある脱衣所前をさした。

市橋被告「その後、4.5畳の和室でも手足に(結束バンドを)はめています」

男性裁判官は、リンゼイさんを拘束するまでの市橋被告の体勢を確認。言葉では伝わりにくく、堀田裁判長は首を大きく傾け、頭の中でイメージしているようだ。

⇒(4)粘着テープにからまる髪をハサミで切断「リンゼイさんは悲しそうな顔」