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(8)暴力、事件、離婚…検事と激しい応酬

昼の休憩をはさんで再開した公判では、鈴香被告の母親に対する検察側の反対尋問が始まった。被告への父親の暴力は本当に理由のないものだったのか。被告は彩香ちゃんをきちんと育てていたのか。証言台の母親は、傍らに座る娘に心配そうに視線を投げかけた後、検察官の質問に静かに答え始めた。

検察官「あなたの元夫は、しつけを理由に被告人に暴力をふるったことはないか?」

証人「はい(ない、意)」

検察官「被告人には万引などの行動があった。これが理由ではないのか?」

証人「そういう時もあったかもしれないが、それだけではない」

検察官「それでは、『しつけを理由の暴力はなかった』ということにはならないのでは?」

証人「当時、私自身は万引のことは知らなかった。夫は知っていたかもしれないが…」

検察官「それが(暴力の)理由なのでは?」

証人「それ(万引)は高校生の時。ひどい暴力が始まったのは、中学の時から」

検察官「被告人は『テキ屋と話をしていたら父親に暴力をふるわれた』と言っていたが?」

証人「私はそれほど騒ぐことではないと思ったが、その時一緒にいた鈴香の友達も殴られた。これはしつけとは思わない」

元夫の異常な暴力性を強調する母親に対し、検察側は「しつけとしての暴力」であった可能性をあぶり出そうとする。

検察官「夫は、被告人の弟には暴力をふるわなかったんですよね?」

証人「弟は(暴力をふるわれている)私たちのことを見て、逃げるようになった。鈴香とは5歳も年が違ったし、(弟は)逃げるのが上手という感じだった」

検察官「弟は、特に(生活面での)問題がなかったからではないのか?」

証人「違います!」

検察官「なんでそう言えるのか?」

証人「結局、(母親と鈴香被告が)自分の言う通りにならないから」

検察官「(性的に機能しなくなったという)夫の病気と、女性(母親と鈴香被告)に暴力をふるうというのは、何か理由があるのか?」

証人「自分の機能がないということで、女を憎むようなところがあった」

検察官「しかし、自分の娘に対しても、というのは…」

証人「いえ!(鈴香被告も)自分の物として考えているからです」

時折、検察官の言葉をさえぎる強い口調で、証人は元夫の暴力を語る。しかし、感情的とも言える物言いに、検察官は納得がいかないようだ。質問は、鈴香被告の両親が離婚した理由に及ぶ。

検察官「離婚の理由は、事件後に夫が『鈴香が彩香を殺したとしたら、おれは鈴香を許さない』と言ったためなのか?」

証人「いろいろ積もっていたこともあった。でも、『自分(元夫)も鈴香の親だろう』と。そういう言葉を出すのは許せなかった」

検察官「それはおかしいことなのか?」

証人「親として、もう少し別の言葉を選んでしゃべってくれるんじゃないかと。いろいろ葛藤(かっとう)があった」

検察官「あなた自身が(元夫に)暴力をふるわれていたのも関係があるのか?」

証人「もちろんあります。でも、『鈴香は(倒れた元夫を看病するなど)これだけ頑張ってきたのに、そんな風に言うのか。あんたも親だろう』と思った」

証人の、元夫への感情があふれ出した。静かな口調ながらも震える語尾が、長年積もった感情の深さをうかがわせる。検察官は、その感情を言葉で表現させようとたたみかけた。

検察官「亡くなったあなたの夫に対して、どう思う?」

証人「…憎しみを持っています」

⇒(9)「真っ黒な卵焼きが大好き」彩香ちゃん