夫殺害・切断:三橋被告の控訴棄却…懲役15年を支持
東京都渋谷区で06年に夫を殺害し遺体を切断したとして、殺人罪などに問われた三橋(みはし)歌織被告(35)の控訴審判決で、東京高裁は22日、懲役15年とした1審・東京地裁判決(08年4月)を支持し、弁護側の控訴を棄却した。被告の責任能力が最大の争点だったが、出田孝一裁判長は「被告が夫から暴力を受けて恐怖感や怒りから殺害に及んだ動機は了解可能で、事件後の行動も合理的だった」として完全責任能力を認めた。
1審で行われた2回の精神鑑定は、いずれも被告が幻覚などを生じる「短期精神病性障害」を患い、心神喪失状態だったとしたが、東京地裁は完全責任能力を認めていた。
控訴審では通算3回目の鑑定が行われ、高裁が選任した鑑定医2人は▽被告が事件当時に見た幻覚は、不眠や心理的緊張による一過性の反応で精神障害ではない▽動機は理解可能で、幻覚があったとしてもそれが原因で事件を起こしたわけではない−−などとして完全責任能力を認めた。
検察側が控訴審の鑑定結果をもとに控訴棄却を求める一方で、弁護側は1審鑑定を信用すべきだとして無罪を主張。高裁は「精神障害が被告の行動に与えた影響について1審鑑定は説明が十分でない」と述べ、控訴審鑑定については「実証的で十分理解できる」と信用性を認めた。
三橋被告は控訴審に一度も出廷せず、この日も被告不在のまま判決が言い渡された。
高裁判決によると、三橋被告は06年12月、自宅マンションで寝ていた夫の会社員、祐輔さん(当時30歳)の頭をワインボトルで殴って殺害。遺体をのこぎりで切断し、新宿区の路上などに捨てた。
◇解説
東京高裁は、三橋被告の完全責任能力を認めた控訴審鑑定に基づき、弁護側の控訴を棄却した。「心神喪失状態だった」とする2件の精神鑑定を退けた1審判決に、新たな鑑定と高裁判決がお墨付きを与えた形だが、その構図は分かりにくいと言わざるを得ない。
最高裁は83年の決定で責任能力の有無は裁判所が判断するとの見解を示す一方、08年には「特別な事情がない限り鑑定結果を十分に尊重すべきだ」との判決を言い渡している。08年判決は、裁判員裁判を見据え「分かりやすさ」を重視した判断だったとされる。
今回の控訴審の鑑定は裁判所が選任した鑑定医2人が共同で実施した。だが、被告が面会を拒み続け、主に1審鑑定資料を基に事件当時の被告の精神状態を検討するにとどまった。精神鑑定の経験が豊富な医師によると「書面の検討を中心にして鑑定書をまとめるのは異例」という。
一方、1審の2件の鑑定についても「精神障害と犯行の具体的関連性に言及しないまま結論を出した」との批判が根強く、高裁判決も信用性を否定した。複数の鑑定をどう評価したか、裁判所に分かりやすい説明が求められるのはもちろんだが、鑑定医側にも信用性を高める努力が求められる。