裁判員会見(下)「簡単に死刑にできるのかな…」「『人の命の重さ』について深く考えた」
東京都港区で昨年8月、耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして殺人などの罪に問われ、1日に無期懲役判決を言い渡された元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判を担当した裁判員4人、補充裁判員2人の記者会見が続いた。
記者「通常の裁判では、量刑データベースの(量刑の)分布表を参考に、無期懲役か死刑かを判断します。今回はデータベースを参考にしたことはありますか」
裁判員3番「過去のいくつかの事件でどうだったのか、というのは聞きましたが、データベースは特に参考にしていません」
裁判員4番「事件の一つひとつで、同じものはありません。この事件はこの事件として判断するしかない、と考えました」
記者「過去の事件と量刑に関する資料は出ていたんですか」
裁判員5番「2、3件について、死刑、無期懲役の判例を聞きました。資料という形では出ていません」
記者「死刑がどう執行されるかについては知っていましたか。また、8〜9月ごろに死刑の刑場が公開されましたが、その写真が頭に浮かんだことはありますか」
裁判員4番「死刑はどう執行されるか、無期懲役はどうなのか。しっかり把握しないと判断できないので、わかるまで確認しました。刑場はテレビのニュースで見ました。評議で頭に浮かぶことはなかったですが、時折思い出すことはありました」
補充裁判員2番「私は死刑の執行方法を知っていましたし、刑場についてのニュースも見ていました。どう死刑が執行されるのか、頭に思い浮かべながら裁判に臨んでいました」
「死刑制度」と向き合うことを余儀なくされた今回の裁判。裁判員らは裁判を通し、その存在と対峙した苦悩についても言及した。
記者「裁判を終え、死刑について考えに変化はありましたか」
裁判員4番「これまではニュースをみる程度で、深く事件について考えることはありませんでした。しかし、今回は『人の命の重さ』について、とても深く考えました。世の中のみんながそれを深く考えれば、犯罪は無くなるのになあ、と」
裁判員5番「裁判員をやる前は、死刑について深く考えることはありませんでした。殺人を犯したのなら、死刑に処せられるのは当然ではないか、と。しかし裁判を通して、死刑そのもの、そして死刑を宣告することの重みを感じました。簡単に死刑にすることはできるのかな、と思いました」
補充裁判員2番の男性は、死刑制度を否定する立場で裁判に臨んだことを明かした。
補充裁判員2番「最初は人が人を裁くというのはどうか、と思っていました。死刑はどうやっても、人が人を殺すことに変わりない。死刑はあり得ない、と思って今回の裁判に臨んでいました。しかし、裁判を通じいろんな話を聞いて、死刑を選択することもあり得るんだ、と気付きました。応報刑でなく、抑止の意味もある、とか。その中で今回の判決があり、結局(被告が)生きる中で何かを見つけ出すというのが人間なんじゃないかな、と考えました」
記者「公判を通じ、精神的な負担はいかがでしたか」
裁判員3番「本当に人を殺した人を、見たことがなかった。初めは恐怖を感じました。裁判官の方たちは、『その日が終わったら、あとは次の日に考えようと』と気を遣ってくれましたが、夜寝る前も目をつぶって事件のことを考えました。今振り返ると、精神的なショックや疲労も大きいが、充実しているというか、色々話し合えたな、という思いです」
裁判員5番「頭を使って疲れていたためか、夜はよく眠れました。ただ、明日から普通の生活に戻り、今後どうなるか分からない。事件のことを考えてしまうかもしれません」
補充裁判員2番「『疲労』という表現は語弊があるかもしれませんが、この疲れは仕事や暮らしの中でのものとは別で、自分にとって大切な、『疲れるべき疲労』だと思います。国民の皆さんにも、この疲労を感じてほしい。裁判員裁判を通じて、人間の生活やこの社会について考えてほしいです」
記者「公判中、ありがたかった裁判所側の配慮や、またはもっとこうしてくれたら負担が軽くなるのに、と思ったところはありますか」
裁判員5番「証拠を見た後や1日を終えた時に、裁判長が『大丈夫?』『明日も来れますか?』と配慮してくださった。初めは、選ばれたら11日間絶対来なければならない、と思っていたが、ダメな時は帰してもらえるので、これから担当する裁判員も怖がらずにやってほしいです」
裁判員6番「評議の後、裁判長が『判決についての責任は裁判官が負う』と言ってくださり、気持ちが和らぎました。検察側、弁護側両方が上訴できる仕組みについても教えてもらい、少し楽になりました」
改めて、今回の判決の焦点となった『死刑』について質問が飛ぶ。
記者「死刑か無期懲役か。その重い判断に、どんな思いで向き合いましたか」
裁判員3番「遺族の感情や証拠の映像だけとらえて判断するのではなく、公平な第三者の立場で総合的に判断しました。感情だけでは死刑の判断はできません。ただ、最終的には自分の意見、気持ちを大事にして判断しました。裁判官裁判であれば(死刑の判断基準として示されている)永山基準に照らせばいいが、個人としての気持ちが入っていなければ、裁判員裁判の意味はありません」
補充裁判員2番「私見を捨てて臨むのが、一番難しかった。公正に判断したいと思いましたが、自分の感情や価値観が出てくるものなんだなあ、と感じました」
記者「評議は4日間行われましたが、時間は足りましたか」
裁判員5番「みんなの意見を聞くことができ、短いとは思いませんでした。毎日が充実していて、1日が過ぎるのが早い、とは感じましたが。よく評議できたと思います」
裁判員6番「濃縮された、濃い4日間でした」
会見は1時間に達し、裁判員らに疲労の色が浮かぶなか、最後の質問となる。裁判員らは、林被告の反省、更生を願う言葉を口にした。
記者「刑(無期懲役)を言い渡すことに葛藤はありませんでしたか」
裁判員3番「被告が確実に反省しているとはいえず、死刑判決となる可能性もあった。公判当初は検察官の質問に首を振ったり、私からみて『反省がないな』と感じたが、今日はうなずきながら、しっかりと判決を聞いていました。生涯反省を深めてほしいと思います」
補充裁判員3番「林被告が反省を深めるという保証は100%ではない。しかし、被告も人間であるはず。自分自身を見つめ、事件のことを忘れることなく、長い時間、深く反省してほしい」
ここで会見は終了。裁判員ら6人は最後までこわばった面持ちを崩さないまま、会見場を後にした。