裁判員会見(上)「一人ひとりが親族の身になろうと努力」「被告の態度に変化
東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=当時(78)=の2人を殺害したとして殺人などの罪に問われ、1日に東京地裁で無期懲役の判決が言い渡された元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判を担当した裁判員の記者会見が同日夕、東京・霞が関の司法記者クラブで開かれた。補充裁判員を含む裁判員6人が出席。昨年5月の裁判員制度開始以来、初めてとなる死刑求刑事案で審理に参加した感想を述べた。
裁判員はこの日、全員が黒っぽい服装で会見に臨んだ。極刑か否かという難しい判断を迫られた裁判員の表情は一様に硬く、緊張している様子がうかがえる。
裁判員3番は30代の男性会社員、裁判員4番は性別も年代も非公表を希望、裁判員5番は30代の女性、裁判員6番は男性会社員、補充裁判員2番は性別も年代も非公表を希望、補充裁判員3番は20代の男性だ。
記者「初の死刑求刑となる裁判に参加した感想は」
裁判員3番「(死刑求刑を)重く受け止めながら(参加)したが、正直しんどかったし大変でした」
裁判員4番「大きく報道されていた事件なので重い求刑がなされるのは分かっていましたが、犯罪や裁判のことをそこまで考えたことはなかったので、正直大変でした」
裁判員5番「長い時間通ったので大変でした。事件も求刑も重く、頭を悩ませていたので大変でした」
裁判員6番「プレッシャーを感じながらやるにつれ責任感が出てきましたが、大変でした」
補充裁判員2番「大変疲れました。疲れたというのは悪い感じではなく、この経験を絶対に忘れてはいけないと感じています。判決を出せばすっきりするかと思ったがそうではなくて、いろんな人の心情を考えると胸がいっぱいです」
補充裁判員3番「1日1日の密度が濃く、簡単に言うと疲れたが、ここまで他人の性格などを深く考えたことは初めてでした。疲れたという表現しか出てこないが、これまでの自分にかかわりのないことだらけで、いい勉強、いい経験になりました」
記者「被害者のつらい被害感情に直面した感想は」
裁判員3番「被害者の遺族の気持ちという面では、2人亡くなっているので…(言葉に詰まる)。本当に悲しい気持ちというか、かわいそうという気持ちになるが…うまく言えないです。どう言えばいいのか…」
裁判員4番「遺族の意見陳述や、(犯行当日、助けを求めて絶叫する家族の様子を映した防犯カメラ映像など)証拠の映像で涙する部分はありましたが、重く受け止めて、一生懸命公正な判断を下すことが大事で…。一生懸命重く受け止めました」
裁判員5番「(証拠の)映像には心を痛めました。自分の家族がそうなっているような気持ちになりました」
裁判員6番「(証拠映像の)実際の声を聞くと、想像しきれないほどつらいのが分かり、それだけ重い事件だと感じていました」
補充裁判員2番「遺族の話などを聞くと、胸が詰まる思いでした。評議の中で一人ひとりが遺族の身になろうと努力したのは間違いありません。こういう判決にはなりましたが、遺族には何かしらの、少しでも希望を持って生活していってほしいと思います」
補充裁判員3番「証拠映像や遺族の意見陳述で、重い事件だったと改めて思いました。遺族の感情もしっかりと考え、みんなでたくさん話し合い、公正な判断ができたと思います」
記者「無期懲役か死刑かで、何に一番重きを置いて判断したのか」
この質問に対しては、立ち会った裁判所の職員が評議の中身に触れることになるので、質問を変えるよう指摘。別の記者の質問に移った。
記者「初公判から被告を見てきてどう思ったか」
裁判員4番「被告が遺族の意見を直接耳にするのは初めてで、それを聞いてから彼に少し変化があったと感じました」
裁判員5番「検察官とのやりとりなどから、当初は反省していないように見えましたが、遺族の意見陳述を聞いてやっていることが分かってきて、反省しているのではないかと思うようになりました」
遺族の意見陳述を聞いた被告の態度に変化があったと指摘する裁判員の意見が相次いだ。
裁判員6番「許し難いので、今後も真摯(しんし)な反省をしてもらいたいと思います」
補充裁判員2番「被告は何かしら少しずつ変わっていった気がしました。私の目には、判決をうなずいて聞いているところがあるように見えたところもあった。反省、内省が深まっていたのではないかと思いました。これからも深く深く、その気持ちを持ち続けて生きてほしい」
補充裁判員3番「遺族の意見陳述を聞いて徐々に変化したのが見えたので、判決が重いということを意識していってもらいたいです」
裁判員3番「被告の裁判での言動には『今言うことなのか』と感じ納得できないこともあったが、被害者の意見を聞きながら、変わってきていると感じた。今日の法廷でも、いつもと違う表情に見えました」
記者「検察側から死刑求刑が出たときの正直な感想は」
裁判員3番「以前から報道などで耳にしていたので動揺はありませんでした」
裁判員4番「報道などから極刑が求刑されるのは想定していたが、動揺しました。わかっていても動揺しました」
裁判員5番「求刑に動揺はしませんでしたが、次の日からの評議が重いものになると感じました」
裁判員6番「予想はしていましたが、評議が重くなってきたという印象です」
補充裁判員2番「極刑にどういう意味があるのかということを深く考えようと思いました」
補充裁判員3番「死刑求刑は分かっていたのですが、刑の重みを改めて実感し、重いことをしたのだと感じました」