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(3)「目の前がチカチカ…」覚えていたはずの彩香ちゃん転落の様子は「記憶なし」

弁護側の質問は、やっと彩香ちゃんを殺害した平成18年4月9日の場面にたどり着いた。

弁護人「4月9日の彩香ちゃん事件について聞きます。朝起きて何をしましたか?」

鈴香被告「彩香に200円を持たせて、『カップラーメン買っておいで。お釣りあげるから』と言いました」

弁護人「起きたのは?」

鈴香被告「(午後)12時半です」

弁護人「次に起きたのは?」

鈴香被告「3時ごろです」

弁護人「そのとき彩香ちゃんは?」

鈴香被告「外に遊びに行っていました」

弁護人「それで?」

鈴香被告「起きたとき、タバコを吸うのが習慣なのですが、吸ってるとき、買い置きのタバコがないことに気付きました。吸っているタバコは藤里では売っていないので、二ツ井に買い物に行こうと」

弁護人「誰と?」

鈴香被告「外で遊んでいた彩香の声がしたので『お母さん、二ツ井に行くけど、行くか』と声をかけました」

弁護人「それで?」

鈴香被告「行く途中にガソリンが少なくなっているにに気づき、ガソリンを入れて、サンクスに行って5本入りの納豆巻き1パックを買いました。彩香はピカチュウのおもちゃがついたラムネと、やはりポケモンのミューというキャラクターのついたお菓子を買うのに迷って、どっちがいいか聞いてきました」

弁護人「結局どちらを買ったのですか?」

鈴香被告「ピカチュウを買いました」

弁護人「その後は?」

鈴香被告「タバコのカートンを買うのを忘れたので、買いました」

1審のときより、若干詳細に当日の動きを説明する鈴香被告。話は、犯行時間に近づいていく。

弁護人「家に帰ってからは?」

鈴香被告「おもちゃが鳴らないというので、ドライバーでいじったらすぐ治ったので、彩香はそれを持って『見せにいってくる』と言って出ていきました」

弁護人「その後、頭にうかぶのは?」

鈴香被告「まず…」

弁護人「ストーリーとしては?」

鈴香被告「残っている部分と残っていない部分があります。残っている部分はカメラの写真みたいに残っています」

弁護人「ストーリーとして(記憶に)戻ってくるのはいつからですか?」

鈴香被告「サザエさんのテーマを聞いてからです」

弁護人「そこからは残っている?」

鈴香被告「一部残っていないところもあります」

弁護人「完全に戻るのは?」

鈴香被告「…彩香を捜しているところからです」

1審までの鈴香被告は一貫して、健忘が起きたのは、彩香ちゃんを橋の欄干に座らせたところから橋の上で尻もちをついたところまでと話していた。鈴香被告の今回の主張は、これまでの発言に比べ、大幅に“後退”したことになる。

弁護人「話を戻します。ピカチュウを見せに行ったというが、どういう記憶が残っています?」

鈴香被告「走っている姿」

弁護人「次は?」

鈴香被告「家に自転車があるところ。買い物したものを片づけ、ジャケット脱いで横になった。順番が分からないけど、ガードレールの隙間から彩香が川を見て…」

弁護人「そのガードレールはどこにありました?」

鈴香被告「(彩香ちゃんが転落した)大沢橋だと思います」

弁護人「どんな風に?」

鈴香被告「私の右側に彩香がしゃがんでいて、私もしゃがんでいて。彩香はちょっと身を乗り出すようにして、私は(彩香の)ズボンの腰のところをつかんでいます」

弁護人「彩香ちゃんはどこにいるの?」

鈴香被告「道路にいて、コンクリートに手を突いています」

弁護人「それ以外に橋の上の出来事で思い浮かぶのは?」

鈴香被告「尻もちをついているところ」

弁護人「そこの気持ちというか、何が(目に)映っていたか、覚えていない?」

鈴香被告「体の左側に車があって、めまいというか、チカチカしたものが目の前にいっぱいあって、目の前が真っ白になって、耳鳴りがして…。手と唇が震えたり、そういうのがあったと思う」

弁護人「その後は?」

鈴香被告「どのくらいの時間だったか分からないけど、なんでこんなところにいるんだろう。早く帰らなくちゃと思って車に乗りました」

鈴香被告は1審で、欄干の上で急に振り返って抱きついてきた彩香ちゃんをとっさに振り払ったと説明している。しかし今回、鈴香被告はそこさえ覚えていないという。では1審の証言はなんだったのか。

その後、弁護側は1審では詳しく聞かれなかった彩香ちゃん転落後の帰宅ルートについて詳しく質問。さらに、1審で検察側に強く反発した部分の理由について聞いた。

弁護人「1審では、調書どおりに答えたことと、話していないとしたところがあったが、そこに基準は?」

鈴香被告「自分にとって、調書に記載されていてもされていなくても譲れないことに関しては、いいました」

弁護人「例えば?」

鈴香被告「1番大きいことでは、彩香を殺害したということ」

弁護人「ほかには?」

鈴香被告「夢中だったので覚えていません」

さらに弁護側が、帰宅してからの行動について問いただしたところで、午前中の公判はいったん終了。正午ちょうど、鈴香被告は、両手を強く握り、両手を細かく震わせ、うつむきながら法廷を後にした。

⇒(4)豪憲君殺害は「部分、部分が画像としてあるだけ」犯行の記憶、より曖昧に