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(10)検察官の重い一言「時間は戻せない。だから裁判なんです」

検察官は彩香ちゃんの同級生への言葉が、豪憲君殺害時の誘い文句も同じと指摘する。

検察官「豪憲君事件の直前、(犯行現場の)家に招き入れた時も『遺品をもらってくれないか』と誘ったんですよね?」

鈴香被告「はい」

検察官「どんな気持ちだったのですか?」

1審では『切ない、苦しい、張り裂けそうな気持ち』と涙ながらに話した鈴香被告だったが…。

鈴香被告「…すみません。いまはその記憶がわたしにはないです」

検察官「何をあげようとした?」

鈴香被告「カードだったと調書に…」

検察官「実際はどう?」

鈴香被告「実際は思い出せない」

検察官「遺品は口実なのでは?」

鈴香被告「…。調書ではそうなっているが、記憶では、そうやって声をかけている記憶が飛んでいるので答えることが出来ません!」

1審での説明を根底から否定する鈴香被告に、検察官は、遺族・米山さんの気持ちを代弁する。

検察官「豪憲君の遺体をどこに遺棄するかという時に、『見つけやすい場所』と。理由は米山さんに自分と同じ気持ちを感じて欲しくなかったからだと」

鈴香被告「はい」

検察官「そんな思いやりがあるなら、なぜ豪憲君を手にかけたの? 矛盾では?」

鈴香被告「はい。…(矛盾)しています」

検察官「(殺害と遺棄の動機の矛盾について)気持ちの変化を説明できる?」

鈴香被告「できない」

検察官「米山さんのいまの(鈴香被告への)気持ち分かりますか?」

鈴香被告「憎い気持ち。それ以上の(米山さんの心の)中身は私には分からない!」

検察官「前回(の公判)で、米山さんの調書読みましたね。気持ち分かった?」

鈴香被告「はい」

検察官「米山さんは真実を求めている。…それから…『豪憲を返せ!』と」

『豪憲を返せ!』の部分で突如、凄味の利いた声を出した検察官に鈴香被告は思わず大きな声で答えた。

鈴香被告「はいっ!」

再び検察官は声に凄味を利かせる。

検察官「…それが駄目なら『命を持って償って欲しい』と!」

鈴香被告「はいっ!」

検察官「…どう思う?」

嗚咽を漏らし、かすれた声で答える鈴香被告。

鈴香被告「命を奪って申し訳ない。返せるなら返したい。時間を戻せるなら戻したい」

検察官による被告人質問は次の言葉で終わった。

検察官「それができないから裁判なんですよ」

裁判長はこの日の閉廷を告げる一方、次回公判での鈴香被告への要望を話し出した。

裁判長「被告によく考えて欲しいのは…。豪憲君の動機がいままでと違う。…これからよく考えて思い出せるよう努めるというが、それは本心?」

鈴香被告「はい」

裁判長「『豪憲君事件は彩香ちゃんの再捜査を求めたため』とか、『なぜ彩香だけが、という嫉妬や憎悪から』という動機は全部うそ?」

鈴香被告「うそではないです」

裁判長「うそではないの? 当時はそういう気持ちあったの?」

鈴香被告「はい」

裁判長「『これからよく考える』とは…」

鈴香被告「それ(いままでの動機)だけじゃない気がして」

裁判長「…豪憲君を殺害したら警察はまず何をすると思う?」

鈴香被告「豪憲君の犯人を探す」

この答えに裁判長は思わず失笑する。

裁判長「そしたらあなた、捕まるじゃない!」

鈴香被告「はい」

裁判長「だったら(自分が捕まる可能性のある彩香ちゃん事件の)再捜査が動機って変じゃない?」

鈴香被告「…」

裁判長「本当のこと話してないんじゃないの?」

鈴香被告「私はそのつもりです」

裁判長「豪憲君の犯人が誰か、というのをあなた恐れたのでは?」

鈴香被告「…」

裁判長「捕まらないと思ったんだろうけど、心配もあったでしょ?」

鈴香被告「…あったと思います」

裁判長「だったらなぜ豪憲君を殺害するの?」

鈴香被告「…。答えられません」

鈴香被告は両手を証言台の端を両手で強くつかみ、体をなぜか左側に傾け始める。裁判長の疑問はなおも失笑を交えながら続いた。

裁判長「豪憲君の冥福や両親への反省を伝えるなら、本当のことを話してくれるのが人間の務めだと思うけど」

鈴香被告「…」

裁判長「彩香ちゃん事件への関与は認めてますよね?」

鈴香被告「…」

20秒以上の沈黙の後、頭を揺らし始める鈴香被告。

裁判長「できれば(真実を)話してもらいたい」

この裁判長の言葉に鈴香被告がついにキレる。

鈴香被告「…裁判長はわたしがうそをついていると思うのですか!?」

裁判長「うそというか不自然」

鈴香被告「私も心の中がよく分からない。分かってる範囲で話しています」

裁判長「だったら豪憲君の殺害動機を説明して」

ここで弁護側が「説明できるところは説明している。いまは分からないだけ」と割って入るが、裁判長は取り合わない。

裁判長「だから次回までによーく考えてさ。警察を動かすためとか、嫉妬が爆発したとか、どういう気持ちなのか、もう少しきちんとしゃべってもらわないと理解できないよ、正直いって。豪憲君や米山さんに憎しみあったの?」

鈴香被告「ないです」

裁判長「じゃあなぜ豪憲君の首を絞めて殺して遺体を遺棄するの? いままで(の鈴香被告の言動)を見てると、あなた精神錯乱者の行動じゃないでしょ?」

鈴香被告、体を震わせ始め、カタカタとイスの鳴る音が法廷内に響き渡り廷内が騒然となる。裁判長、その異様な音に「次回まで考えて」と、午後4時40分に閉廷を宣言した。

鈴香被告は一瞬、母親の方に視線を送り退廷。次回29日の第3回公判は、裁判所による被告人質問の後、豪憲君の父、米山勝弘さんの証人尋問が予定されている。

⇒控訴審 第3回公判