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(2)変わり果てた姿…「妻と2人で遺体なでた」

証人として証言台に立った米山豪憲君の父、勝弘さんは、検察官に促されるまま、豪憲君の思い出を語り続けた。

勝弘さんは現在、自宅で仕事をしている。勝弘さんは、子供と触れ合う時間をつくろうと、脱サラして起業したのだった。豪憲君は、会社勤めで単身赴任しているときに生まれた子。「(子供と)一緒にいる時間を大切にしたかった」と語る証人。検察側の質問は、家族関係に移った。

検察官「(3人兄弟の豪憲君は)長男とも仲がよかったようだが?」

証人「本当に仲良しだった。いつも寄り添って遊んでいたのが印象的だ。誕生日に2人に『ゲームボーイ』を買い与えたが、豪憲は自分のゲームボーイでは遊ばず、兄にぴったり寄り添って、兄と遊んでいた」

検察官「弟とは?」

証人「弟とは年が離れていたが、よく遊んでくれた。弟ができて喜んでいた」

検察官「お母さんが大好きだったようだが?」

証人「私が単身赴任していたときに生まれ、私は手をかけてあげることができなかった。うちの家族は5人家族で男が4人なので、『お母さんだけ女だから、弟じゃなくて、妹だったらよかった』と言っていた」

検察官「(母親に)無邪気にプロポーズをしたとか?」

証人「『お母さんと結婚したい』と言っていた。『お父さんと結婚しているから結婚できないよ』と妻が言って指輪を見せると、『僕も買うから』と言い出した」

鈴香被告は話に聞き入り、時折つらそうな顔を見せる。

検察官「昨年4月9日ですが、彩香ちゃんが行方不明になり、10日に発見された。長男は彩香ちゃんの死を知っていたのか?」

証人「2人は毎週のように外で遊んでいた。(長男は)いなくなったことは分かっていたが、翌日、学校で初めて状況を知ってボロボロ涙をこぼし、かわいそうだった。その後、1週間熱を出して寝込んでいた」

検察官「こうしてあげれば、などとは?」

証人「川に落ちたと発表されていた。当日は他の子供と遊んでいたので『彩香ちゃんと遊んでいればこんなことにならなかったのに。なんで遊んであげなかったのだろう』と悔やんでいた」

検察官「(彩香ちゃんは)豪憲君ともよく遊んでいたようだが?」

証人「最初は、数日前に小学校に入学したばかりだったから、状況がよく分からなかったようだが、そのうち妻に『何で川に行ったのかなあ』『遊んであげればよかった』と豪憲なりに死を振り返っていた」

殺害される1カ月前には、家族5人で秋田市内の大森山動物園に行ったという。ベビーカーから降りて、坂道を歩く弟を危ないからと言って後ろから支えた豪憲君。それでも支えきれない2人を支える長男。証人は「3人で手をつないで歩いていたのをよく覚えている」という。

検察官「その時のビデオを見返すことは?」

証人「はい。(子供が)2人と3人とではにぎやかさが違う。3人仲良くそろったのは1年3カ月の期間しかなかった。3人兄弟そろうのは、ビデオの中だけしか見られないので…」

証人は消え入りそうな声で話す。

検察官「大森山動物園では兄としての自覚が出ていた。スポーツが得意で、将来を楽しみにしていたようだが、生前の豪憲君を思いだすことは?」

証人「毎日、繰り返し、繰り返し思いだしている。思いださない日は1日もない」

検察官「あなたの中では、今でも生き続けている?」

証人「はい」

ここから、検察側の質問は、豪憲君が行方不明になったころの話に移った。

検察官「(昨年)5月17日に行方不明になり、翌日、ご遺体が発見された。発見されたときの気持ちは、調書にも記されているが、改めてそのときの気持ちを聞きたい」

証人「…。豪憲が行方不明になった翌日、警察官から、二ツ井で子供の遺体が発見されたと聞かされた。信じたくはなかったが、現実なのかわからなくなり、涙がボロボロこぼれてきた。妻は半狂乱になったのを覚えている」

検察官「遺体と対面したときは?」

証人「その日は、遺体を確認するまで、30分ほど別室に待機していた。確認するのが怖いというか、恐怖というか、そういう感じだったが、親として、確認しなければいけない、しっかりと見なければいけないと思った。確認してくださいといわれ、遺体をみると、人相が…顔が驚くほど腫れ上がり、後から聞いたらアリに食われていたということだが、体のあちこちに傷があり、想像を絶する姿だった。手袋をはめ、顔や体、全身を妻となでてあげたのを覚えている」

証人が話を続けるにつれ、鈴香被告が体を震わせるようになる。その横で、女性刑務官が、心配そうに鈴香被告の様子をうかがう。証人は、消え入りそうな小さな声で話を続けた。

検察官「このときの豪憲君の姿は今でも思いだすか?」

証人「はい」

検察官「どのような時に?」

証人「豪憲の生前のことを思いだすと、フラッシュバックのように、そのときのことを思いだす。殺害される残酷な状況が目に浮かんでくる。殺人犯に対して強い憤りを感じた」

とうとう、目から涙があふれ、水色のタオルで顔をぬぐう鈴香被告。体は激しく震えていた。

⇒(3)アリバイ工作「馬鹿にして、せせら笑って…許せない」