(1)上司を刺された女性警官の証人は、被告を鋭くにらみ付けた

東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた元派遣社員、加藤智大(ともひろ)被告(27)の第8回公判が21日午前10時、東京地裁(村山浩昭裁判長)で始まった。この日の公判では、目撃者ら4人への証人尋問が行われる予定だ。
これまでの公判では、被害者と目撃者が代わるがわる証言台に立ち、「オタクの聖地」と呼ばれた秋葉原を恐怖に陥れた惨事の瞬間を自分たちの声で証言した。今回の証人は何を目の当たりにし、何を語るのか?。
法廷は傍聴席が98席あり、東京地裁最大の広さを誇る104号法廷。前回の公判で使われた広さが3分の1ほどしかなかった426号法廷とは打って変わって広々としているが、傍聴席はほぼ埋まっている。
裁判長「それでは被告が入廷します」
午前9時59分。向かって左側の扉から加藤被告が入廷してきた。これまでの公判同様、黒いスーツに白いワイシャツ姿。髪はさっぱりと刈り上げている。被害者や遺族が座る傍聴席に頭を下げ、弁護人の前の黒い長いすに座った。
裁判長「それでは開廷します」
起訴状によると、加藤被告は平成20年6月8日、秋葉原の交差点にトラックで突っ込み、3人をはねて殺害。ダガーナイフで4人を刺殺したほか、10人にけがを負わせたなどとしている。
黒いスーツに髪をポニーテイルに束ねた若い女性が証言台に立つ。
証人「良心に従って偽りのないことを誓います」
裁判長の言葉に従って証人が宣誓を行う。法廷に通るはっきりした声だ。
検察官「あなたは20年6月8日当時、現場を目撃した警察官ですね」
証人「はい」
検察官の説明によると、証人は19年7月、警察学校を卒業、事件当時は秋葉原を管轄する警視庁万世橋署交通課交通執行第2係に配属されていたという。
その後、証人は、殺人など凶悪事件を担当する同署刑事課強行犯係に配属されることになった。
検察官「あなたは(上司の)○○警部補が犯人から攻撃を受けた状況を目撃していたのですね」
証人「はい」
若手警察官らしくはっきりした口調で答える。
検察官「当時はどんな職務についていましたか」
証人「(秋葉原の)歩行者天国の警戒に就いていました」
検察官「服装は?」
証人「紺のポロシャツにベージュのズボンでした」
検察官「どうして私服だったのですか」
証人「パフォーマンスをする人がおり、一般人に紛れて取り締まりをするためでした」
当時、同署交通課交通執行第1係長だった○○警部補と任務に当たっていたという。
検察官「当日午後0時半ごろはどこにしましたか」
証人「外神田3丁目交差点付近におりました」
法廷に備え付けられたモニターに現場の見取り図が映し出され、証人が自分がいた場所を赤いペンで印をつけた。
検察官「何か異変を感じましたか」
証人「バーンという大きな音が聞こえました。女性の悲鳴のような声も聞こえました」
検察官「何が起きたと感じましたか」
証人「交通事故が起きたと感じました」
検察官「そのとき、どうしましたか」
証人「係長(○○警部補)から『走って見てこい』と言われ、走って見に行きました」
検察官「何が見えましたか」
証人「(パソコン量販店)ソフマップと横断歩道上に男性が倒れているのが見えました」
検察官「ソフマップ前の男性はどのような状態でしたか」
証人「顔が血だらけで、周りに救護する人がいました」
男性は重体に見えたが、証人はすぐにその場を離れたという。
検察官「なぜすぐに移動したのですか」
証人「交差点に倒れている人は誰も救護する人がおらず、救護の必要性を感じました」
交差点に倒れていたのは若い男性で、服がはだけていた。証人は肩をたたきながら意識の確認をしたという。
検察官「そのとき、何か見ましたか」
証人「男の人が走ってくるのが見えました」
検察官「特徴は?」
証人「ベージュ色の上着にベージュ色のズボン、眼鏡を掛けていました」
検察官「被告席に座っている被告と同一人物ですか」
証人は鋭い目つきでしばらく加藤被告をにらみ付けた。うつむきがちに視線を落としていた加藤被告は激しいまばたきを始めた。
証人「正面から見たわけではありませんから…」
検察官「男が目の前を通り過ぎたんですね」
証人「はい」
検察官「手に何か持っていましたか」
証人「黒い先のとがったナイフのようなものを持っていました」
男は交差点に向かった。交差点の真ん中には、事件を受けて駆け付けた○○警部補がいた。
検察官「男は何をしましたか」
証人「係長の背中にぶつかって走っていきました」
検察官「ぶつかった際、男はどんな状況でしたか」
証人「ひじを曲げた状態で、ナイフのようなものの先を係長の背中に向けるようにぶつかりました」
検察官「どんな感じでぶつかりましたか」
証人「体当たりのような状態でした」
検察官「その後は?」
証人「交差点を湾曲するように走りながら何人かにぶつかっていきました」
検察官「手に持ったナイフを動かすような行為はしましたか」
証人「はい…」
それまでひと言ひとことはっきりした口調で答えていた証人が答えをにごした。
証人「いまの時点では覚えていません…」
検察官「視覚として覚えていないということですね。事件直後に上司に目撃したことを話した記憶はありますか」
証人「はい」
検察官「当時、上司に『犯人は、係長にぶつかった後、プスプスと人を刺しながら走っていった』と話しましたが、覚えていますか」
証人「はい」
検察官「○○警部補はどうなりましたか」
証人「座り込むように倒れてしまいました」
検察官「どんな状態でしたか」
証人「とても苦しそうで、顔色が悪かったです」
検察官「○○警部補から何と言われましたか」
証人「『背中を押さえてくれ』と言われました。係長のシャツに穴があいていて、血がにじんでいました」
検察官「救護を手伝ってくれた人はいましたか」
証人「白人の男性や電器店の店員、『自分は医師だ』と名乗る男性が来てくれました」
検察官「○○警部補の状態はどうでしたか」
証人「とても苦しそうで、みるみるうちにシャツが血で染まりました」
検査官が現場の防犯カメラに写っていた写真を証人に確認する。その間、加藤容疑者はうつむきながら、前のテーブルに置かれたノートにしきりに何か書き取っていた。