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(15)トラックは約43キロで交差点に突っ込んだ…

秋葉原の事件現場交差点に突っ込んだ加藤智大(ともひろ)被告(27)が運転するトラックの画像を解析した警察庁技官への証人尋問。検察官が画像解析の具体的な方法について、質問を続けている。被告席の加藤被告は身動きせず、じっと前を見つめている。

交差点近くの防犯カメラに残された2枚のトラックの静止画像。技官は、この2枚が0・8秒間隔で撮影されたと説明した。画像に残された時刻の記録は、12時33分8秒と、同分9秒で、1秒間隔になっているため検察官は、理由を確認する。

検察官「時刻の表示は1秒間隔となっていますが、単にコンマ以下が表示されないからということですか」

証人「そうです」

次に検察官は技官に具体的な解析方法の説明を求めた。技官は、「2枚の画像からトラックの移動位置を確認し、移動距離を計測した」という内容の説明をする。

検察官「結果は」

証人「9・52メートルでした」

検察官「そこからどのように速度は測定されるのですか」

証人「0・8秒間の間に9・52メートル進んだことになります。これを時速に換算し平均時速約43キロと計測しました」

検察官「『約』とは」

証人「小数点以下を四捨五入しました」

ただ、技官はその計測をコンピューターで確認したところ、誤差が生じていることも付け加えた。

検察官「その誤差は平均時速約43キロという結果に影響しますか」

証人「『約』の部分に含まれると思います」

検察官「影響はないということですか」

証人「はい」

検察官「鑑定の結果、トラックの平均時速は約43キロと判明したということですね」

証人「はい、そうです」

続いて、弁護側の尋問に移る。

弁護人「今回の(防犯カメラの)記録装置と同じメーカーの同じ型番で鑑定した経験は過去にありますか」

証人「それはありません」

弁護人「トラックが写っているコマは2つで、その撮影間隔は0・8秒ですね」

証人「はい」

技官は撮影間隔が0・8秒と推定できる理由を細かく説明した。

弁護人「(記録)装置の設定から0・8秒間隔と考えたということですね」

証人「はい」

弁護人「次のコマから次のコマまでの時間を実際に計測したわけではないですね」

証人「はい、行っていません」

弁護人「実際、記録に誤差があったかどうか確認されているわけではないんですか」

証人「…はい」

この後も、トラックが写っている2コマの写真の撮影間隔を確認する質問が数問続き、証人は検察側に行った説明を繰り返した。

弁護人「鑑定結果がずれていないか検証したとのことですが、カメラ自体は向きを変えたりできるものですか」

証人「覚えていません」

弁護人「事件後検証されるまで、装置が動いたりしたことなど、気づいたことはありませんか」

証人「ないです」

弁護側の尋問が終わった。裁判官がほかに質問がないか確認すると、検察官が「1点だけ」と質問に立った。

検察官「装置に不具合があった記憶はありましたか」

証人「3人で確認しましたが、そうしたことは感じられませんでした」

再び、弁護人が質問に立ち上がった。

弁護人「それは装置の設定を確認しただけではないのですか」

証人「はい、まぁそうです」

目の前で交わされる弁護人と検察官の応酬にも、加藤被告の無表情は変わらなかった。証人尋問の終了を告げる村山浩昭裁判長。その後、検察側は、技官ら3人が鑑定したトラックのスピードについての証拠書類を提出した。

検察官「(証拠は)防犯カメラの映像をもとに、トラックの時速について約43キロメートルと算出したものです」

裁判長「以上をもちまして、本日の証拠調べを終了します。次回は、3月15日午後1時30分に開廷します。証人尋問3人を予定しております。被告人は必ず出廷するように」

裁判長の方に顔を向けていた加藤被告は、声をかけられると小さくうなずいた。

裁判長「それでは、被告人から退廷してください」

時計の針は午後4時47分をさしている。おもむろに立ち上がった加藤被告は、ドアに向かう途中で傍聴席を振り返り深々と一礼した。加藤被告は、再び姿勢を戻すと、無表情のまま、ゆっくりとした足取りで法廷を後にした。

⇒第6回公判