(2)「ゲームの決着をつけたい…」友人を失った大学生

引き続き、検察官は友人3人とともに加藤智大被告のトラックにはねられた被害者の大学生、Cさんの供述調書を読み上げている。加藤被告はじっとうつむいたままで、表情からは何を考えているのか読み取ることはできない。
検察官「私もB君(一命を取り留めたCさんの友人)もトラックをよけるのが遅れたら、亡くなったA君や川口(隆裕)君=当時(19)=のようにはねられていたはずです。私は事件を思いだすのがいやで、あれ以来、秋葉原には行っていません。また、信号はたとえ青でも、『トラックがきたらどうしよう』と思うと怖くなってしまいます」
「私は事件の後、川口君とA君のお葬式に参列させていただきましたが、川口君のお母さんは葬儀の間はずっと泣いていて、とても悲しそうでした。A君のご両親もずっとうつむいていて、とても悲しそうでした」
「トラックが突っ込んでくるまでは、4人はいつも遊んでいた“アキバ”で、いつもと同じように遊んでいました。こんなにもあっさりと大切な友達を亡くすなんて、想像もしていませんでした」
やるせない胸の内を告白するCさん。法廷は静まりかえり、加藤被告はうつむいたままだ。
検察官「A君と川口君に会いたいと伝えたい…。夏休みには旅行に行きたいし、川口君と約束だったゲームの決着をつけたい。大勢の命を奪った犯人は、絶対に死刑にしてください」
供述調書からは、Cさんの加藤被告に対する怒りが伝わってくる。読み上げは続く。
検察官「死刑にしてほしいけど、犯人には簡単には死んでほしくないです。A君や川口君、そのほかの被害者が味わった苦しみと同じ分の苦しみを味わわせたい。そのために私が犯人をぶん殴ってやりたいです。以上です」
読み上げは終了した。次は、供述調書の本人である被害者のCさんによる、法廷での証人尋問が行われる。
Cさんの希望で、Cさんの姿が傍聴席からは見えないように、法廷と傍聴席の間に遮蔽(しゃへい)用のカーテンが置かれることになった。傍聴席の前には、大きな板のカーテンが準備された。証言台は傍聴席からは見えないが、検察官や被告人、弁護人の席からは見える状態だ。
村山浩昭裁判長の合図で、Cさんが入廷してきた。まずは、検察官による尋問が始まった。
検察官「それでは質問を始めます。あなたは、被害者のCさんですね」
証人「はい」
検察官「それでは、秋葉原に行った経緯を教えてください。事件が起きた平成20年6月8日、友人4人で映画を見に行くために午前7時ごろ集合したんですね?」
証人「はい」
検察官「新宿で映画を見た後、午前11時ごろに秋葉原に行ったのですね?」
証人「はい」
検察官「被害にあわなければ、どうする予定だったのですか」
証人「ほかにお店を回ったり、ゲーセン(ゲームセンター)に行ったりする予定でした」
検察官「それはなぜですか」
証人「私と川口君は同じゲームが好きだったのですが、どっちがうまいかゲーセンで決着をつける約束をしていたからです」
検察官「それでは図面を見てください」
法廷内の大型モニターに、事件現場となった秋葉原の交差点の図が映し出された。証言席の手元にもモニターがあり、書き込むことができるようだ。
検察官「この図面がどこか分かりますか」
証人「はい、事件のあった交差点です」
検察官「4人がどのように事件現場にさしかかったか、図面に書き込んでください」
証人「はい」
Cさんは、検察官の指示に従って矢印を書き込んだ。
検察官「そこで、どうしたのですか」
証人「横断歩道を渡りました」
検察官「4人が渡ったとき、信号は何色でしたか」
証人「青信号でした」
検察官「4人の位置関係はどうでしたか」
証人「前後に2人ずつ並んでいて、私とB君が前で後ろにA君と川口君が歩いていました」
検察官「何か話をしていたのですか」
証人「朝に見た映画の話をしていました」
検察官「周りには人はいましたか」
証人「あまり覚えていませんが、それなりにいたとは思います」
検察官「(加藤被告が運転する)大型トラックに気づいたとき、トラックからどのくらい離れていましたか」
証人「4〜5メートルぐらいだったと思います」
検察官「どんな様子でしたか」
証人「かなりスピードが出ていて、エンジンの大きな音も聞こえました」
事件が起こったときの様子を、慎重に聞き出していく検察官。加藤被告は、相変わらず下をじっと見つめたままだった。