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(2)「まさに戦慄すべき残忍性」被告の人間性否定する検察側

続いて、弁護側の要請で実施された精神科医の中島直医師による精神鑑定意見書に対し、検察側が“評価”を述べ始めた。検察側に有利な部分は率直に認めていく検察側。

検察官「中島医師は意見書で、『被告が豪憲君の死体を遺棄したときは若干の(精神的な)減弱はあったが問題はなかった』としています」

一方、検察側の主張と異なる部分については一転、鑑定の面談時間と回数が不十分だったためと断定していく。

検察官「中島医師(の主張)は被告の各犯行時の心理について検察と異なりますが、それは被告が真実を語らないからです。中島医師の意見と検察との相違には、妥当性があって、一致しない点にも信用性はあり、合理性はゆらぎません。それは長時間の問診時間もなく、回数も1回にとどまったので問診が不十分だったからです」

不十分な問診では、彩香ちゃんへの殺意を明らかにできず、鈴香被告寄りの主張となったと印象づけたいようだ。

検察官「中島医師は『被告が殺害時に殺意があったかなかったか分からなかったようだ』としますが、殺意に関する(中島医師の)理解が不十分だったので、迎合的にそう理解したに過ぎません」

彩香ちゃん事件時における心理状態についても中島鑑定を否定し、最後は『想像たくましい』と皮肉を込めて検察側は結論づける。

検察官「鑑定では『当時の被告が無理心中を図る直前にまで追い込まれていて、自暴自棄な状態』としていますが、犯行後の冷静な行動にそうした状態はみとめられません。犯行状況も、『被告が積極的に作り出したものではない』としますが、橋に連れていってという娘の要求を聞き入れて実行したのは被告自身です」

「さらに『彩香ちゃんの殺害時には健忘もあり、豪憲の殺害には自らを捕らえてほしいという気持ちもあったかもしれない』と想像をたくましくしていますが、自己をコントロールできているのに、自分を逮捕してほしいために豪憲を殺した、などというのは、荒唐無稽(むけい)もはなはだしいものです」

続いて情状に移る。検察側は、豪憲君の両親に手紙を送るなどした鈴香被告の行動は、犯行の隠蔽(いんぺい)工作に過ぎないと断罪する。

検察官「彩香ちゃん殺害後、叔母に『見なかったか』と聞いたり、豪憲君殺害後、(豪憲君の)両親に『子供がいないもの同士、頑張ろう』と手紙を送っていますが、なぜかは分からないと言っています。豪憲殺害の動機はあくまで、第3者と思わせるのが狙いで、殺害の理由を思いだせないというのは不自然、不合理、不真面目、不謹慎です」

さらに1審での行動もパフォーマンスと断じた。

検察官「1審判決後の土下座はパフォーマンスに過ぎず、謝罪の意は感じられません。土下座した理由を豪憲の両親と会う最後の機会だったからとしましたが、もし謝罪の気持ちがあるならならば公判の当初から示せばいいのです。豪憲の死体を遺棄したことは認めつつ、両親に手紙を送ることになんら問題はないと語るなど、一片の謝意も感じられません。あくまで自らの嫌疑を晴らそうとする極めて狡猾(こうかつ)な行動です」

一連の行動から導き出される鈴香被告の人間像。検察側はこう締めくくった。

検察官「まさに戦慄(せんりつ)すべき残忍性で、被告はもはや人間性を喪失しているとしかいえません」

続けて、第3回、第4回控訴審で、証言台に立った豪憲君の両親の遺族感情をつづった書面が改めて読み上げられた。「望みはただひとつ、豪憲に会いたい」「過去の生い立ちを斟酌(しんしゃく)した1審判決は理解できない。被告の生い立ちは犯行とどう結び付くのか。更正の機会が与えられれば絶望する」「被告に死刑を望みます」…。遺族の悲痛な訴えが再び法廷に響いた。

遺族感情が読み上げられた後、検察官のひと際大きな声が法廷に響き渡る。

検察官「結論−。罪質の悪質さ、被告の非人間性、被害者遺族の感情に照らせば、被告に対しては死刑を選択するほかはなく、1審判決の量刑は軽きに失し、不当であり、是正されるべきであります」

無表情のまま「死刑」という言葉を聞く鈴香被告。引き続き、竹花裁判長に促されて、弁護人が立ち上がった。弁護側の最終弁論に入る。

⇒(3)「彩香ちゃんへのマイナス感情はストレートな性格ゆえ」弁護側反論