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(15)通報しなかった理由問われ 「自分のこと考えていた」「クスリの発覚嫌だった」

保護責任者遺棄致死などの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)は、弁護人による被告人質問のときと打って変わり、ときどき語気を強めながら検察側の質問に答えている。

質問は、合成麻薬MDMAを服用して平成21年8月2日に死亡した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=の体調に異変が生じた当時について、検察側が押尾被告を取り調べた際のやり取りについてだ。

検察官「(田中さんの容体が悪化した経緯について)あなたは勾留(こうりゅう)質問でどのように話しましたか」

被告「うーん」

検察官「田中さんの容体悪化は(8月2日)17時45分、死亡したのは18時45分と答えましたね」

被告「言いました」

検察官「それは検察官に脅され、あなたの意思で言ったのではないということですか」

被告「いいえ、(取り調べの検事に)言われた通りにたどって説明したということです」

検察官「『こういう風に言え』とすり込まれたということですか」

被告「すり込まれたというか『はっきりさせろ』と言われました。当時、聞かれたことについて何が何だか分からなかったので」

検察官「あなたはすでに(MDMAの所持などで)最低2回は逮捕されていますよね、それでも分からなかったのですか」

被告「分からないものは分かりません」

すでに当時取り調べを受けた経験があったにもかかわらず、混乱していたという押尾被告に疑問を投げかける検察官に対し、押尾被告はきっぱりと言い放った。

検察官「『あなたは時間がたてば田中さんの容体が落ち着くと思った』と話していましたが、どうしてそのように思ったのですか」

被告「田中さんが『ごめんね』と言ったり、話しかけると笑ったりしていたので、時間がたてば落ち着くのだと思いました」

検察官「ハングルみたいなことを口にしたりする人を見て、時間がたてば落ち着くと思ったのですか」

被告「はい」

検察官「そんな経験をしたことがない人が、なぜそのように思ったのですか」

被告「経験がないからこそ、そう思ったのです」

検察官「経験がなければ余計に心配になるのではないですか。話していたかと思うと、またもと(様子がおかしい状態)に戻ってしまうのでしょ」

被告「繰り返すからこそ落ち着くと思いました」

どうどう巡りの質疑となり、押尾被告は口調を強める一方、検察官は首をかしげて納得できない様子を見せた。

検察官「容体が悪化してから電話をかけるまで少なくとも20分はあるが、その間は何をしていたのですか」

被告「心臓マッサージを繰り返したり、呆然(ぼうぜん)としたりしていました」

検察官「呆然としていたのはだいたいどのくらいの間ですか」

被告「分かりません」

検察官「18時47分から(再び電話をかけ始めた)18時53分までの空白の時間に『電話をしていた』と言っていますが、誰にしていたのですか」

被告「(押尾被告にMDMAを譲り渡した)泉田(勇介受刑者)さんや(元マネジャーの)△△さん(法廷では実名)です。ほかにも誰かにしているかもしれません」

検察官「(繰り返し電話をかけていた)泉田さんが電話に出ないと何か不都合なことがあったのですか」

被告「自分の体からクスリを抜きたかったのです」

検察官「119番通報より優先したということですか」

被告「(田中さんは)もう亡くなっていたので」

検察官「それでも普通は通報するでしょう」

被告「自分のことを考えていました」

押尾被告は一瞬言葉を詰まらせ、そう答えた。

続けて記憶が不確かな押尾被告に対し、検察官は電話と電話の“空白の6分間”の重要性について認識を問いただした。

被告「『再逮捕はない』と言われていました。(当時、取り調べを担当した)◇◇検事から『子供と会えるようになる。男と男の約束や』と言われていましたから」

質問と答えがかみ合っていないように思えるが、検察官は特に問いただすこともなく、質問を続けた。

検察官「空白の時間に(知人で元国会議員の)Bさんに言われ、心臓マッサージをやったということではないのですか」

被告「いいえ、事情を説明したら『あきらめずに蘇生(そせい)させろ』と言われました」

検察官「119番通報しなかった理由を端的に教えてください」

被告「クスリが発覚するのが嫌だったからです」

検察官「泉田さんに『身代わりになってほしい』と頼んだことは否定しますか」

被告「『第1発見者になってほしい』とは言いました。クスリを抜く時間がほしかったので」

検察官「泉田さんに連絡が取れていなかったのに当てはあったのですか」

被告「『クスリのことで何かがあったら相談して』と言われていたので(大丈夫だと思いました)」

検察官「連絡が取れていないのにですか」

被告「(泉田受刑者が)自分のために動いてくれると思っていました」

ここから検察官は、内容に同意したか否かを問わず、供述調書の署名と指印が押尾被告の自分の意思でなされたものかどうかを一つずつ確認した。押尾被告はすべてについて自分の意思であることを認めた。

続けて検察官は、押尾被告が取り調べ段階で体調に異変をきたした田中さんの様子を映画の「エクソシスト」「呪怨」と例えたことに関する事実確認を行った。

検察官「結論として、『呪怨』はあなたが言ったんですか」

被告「何かにたとえろと言われたので、たとえるならこうだと言いました」

検察官「もう一度さっきの空白の6分間のことをききます。空白の時間に2セット心臓マッサージをしたというのは間違いないですか」

被告「やったと思います」

検察官からの質問は終了。男性弁護人による質問に移った。

弁護人「空白の6分ですが、□□刑事(法廷では実名)から取り調べがあったんですか」

被告「はい」

弁護人「携帯の通話記録を見ましたか」

被告「直接、見てませんが、口頭で言われました」

弁護人「空白の6分にマッサージしたのかは言われましたか」

被告「多分言われてません」

弁護人「先ほど、検察官の反対尋問でドラッグセックスしたのは覚えていないということでしたが、私の主尋問では2回目に会って以降は、何回ドラッグセックスしたのですか」

被告「覚えていないですが、毎回ドラッグセックスしたわけではないです」

ここで別の男性弁護人に交代した。

弁護人「2点ほど。23階の部屋を借りたのはいつからですか」

被告「6月中旬以降です」

弁護人「この部屋に泊まったのは何回ありますか」

被告「4回あるかないかです」

弁護人「非常のボタンとかの説明は受けましたか」

被告「受けていないです。取っ手みたいのがあって、何かあったような気がしますが、分かんないです」

弁護人「勾留質問で、田中さんの容体がどう変わったのかとか説明しましたか」

被告「細かくはしていませんが、『独り言を言いはじめて、急に倒れた』とかは(説明)しました。『何をした?』と言われ、人工呼吸と心臓マッサージをしたと言いました」

弁護側からの質問は終了した。検察官がさらにもう一度質問を重ねる。山口裁判長が質問の意図を確認した上で、再度の質問が行われた。

検察官「検察官からもう一点よろしいですか。8月2日当日、田中さんもMDMAを準備してきていて、自分も準備してきていたと言っていましたが、田中さんには、泉田さんからのものをあげようとしたのか、それともサプリメントボトルのものをあげるつもりでしたか」

被告「考えたことないんですが、泉田さんから買ったのを使うつもりでした」

山口裁判長が休廷を告げた。約30分間の休憩後に再開される。押尾被告は証言台で、裁判長に深々と一礼をして、弁護人席に戻り、退廷していった。

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