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(11)「世論がうるさいから、起訴せざるをえない」 映画のセリフのように取り調べ再現

保護責任者遺棄致死などの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)に対する男性弁護人からの質問が行われている。押尾被告は証言台に座り、まっすぐに山口裕之裁判長の方を向いたまま質問に答えていく。淡々としながらもはっきりとした話し方で、合成麻薬MDMAを服用して容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=の様子や、取り調べを担当した警察官や検事の様子を説明していった。

弁護人「(昨年)8月3日に逮捕された直後、119番通報するころまで田中さんが生きていたような供述を、初めて面会にきた弁護人にしていますが、なぜですか」

被告「初めて面会に来た弁護人から死体遺棄があり得るといわれ、急に死んだというのはまずいんだろうと思い、◯◯さん(法廷では実名)が来るまで生きていたと言いました」

◯◯さんとは押尾被告の友人で、仲間内では先輩格だったとされ、通報もせずにうろたえているだけだった押尾被告らを一喝し、すぐに119番通報したとされる人物だ。

弁護人「死んだのを放置していたと遺棄になるといわれてそうしたんですか。薬を飲んでいたとは話しましたか」

被告「話していません。興奮剤や強心剤みたいなのを飲んだと話していました」

弁護人「8月18日の調書は知っていますか。田中さんが、(元マネジャーの)△△さん(法廷では実名)が来る直前に死んだのかもしれないとなっていますが、なぜですか」

被告「刑事さんから、『田中さんは自分が来たときには死んでいたと△△さんが言っていた』といわれたからです」

弁護人「8月24日、31日にも任意で取り調べを受けましたか」

被告「はい」

弁護人「それは誰ですか」

被告「□□刑事です(法廷では実名)」

弁護人「その時の調書では死亡時間が(午後)6時50分となっていますが、なぜですか」

被告「刑事さんから『6時50分ぐらいに死んだんじゃないの?』といわれたからです」

弁護人「理由は説明されましたか」

被告「『その時間は通話記録が残っていないからそこら辺がポイントかも』といわれたからです」

弁護人「□□刑事からは再逮捕があるかもしれないという件について話はありましたか」

被告「『オッシー、これじゃ遺棄は成立しないよ』と言われました。8月下旬、三田署で言われました」

押尾被告は、まるで映画のセリフを読み上げるように刑事の会話をリアルに再現させてみせた。弁護人は田中さんが死亡した時刻について、押尾被告が取り調べではっきりと話していないことを明かしていく。質問は、保護責任者遺棄致死容疑での再逮捕の際の取り調べを担当した警察官とのやりとりに移っていった。

弁護人「保護責任者遺棄致死で再逮捕されてからは誰が取り調べを担当しましたか」

被告「××刑事です(法廷では実名)。『お前に黙秘権などない。供述能力しかない』と言われました」

押尾被告は再び、きっぱりと取り調べを担当した警察官の“セリフ”を再現した。

弁護人「このときの調書には田中さんが容体が急変して死亡するまでの時刻は話しましたか」

被告「話していません」

弁護人「話していないのになぜ調書に書かれているのですか」

被告「『時刻のない調書は信用されない。“とりあえず急死した”では信用されないから、長い範囲で示してよいから』といわれ、『長くて30分ぐらいですかね?』という感じで、そうなりました」

押尾被告は、それまで証言台の中に収めていた右手を挙げ、身ぶり手ぶりで示しながら説明した。続いて、弁護人の質問は、押尾被告と担当検事とのやりとりに移った。

弁護人「最初の◇◇検察官(法廷では実名)の印象はどうでしたか」

被告「『お前には黙秘権があるが、調書にサインをしないやつは、裁判官の印象が悪くなる。しかしお前もよくこんな真っ黒な女と付き合っていたな』と言われました。今までの調べと違って、優しくしてくれたり、何か優しい話し方で信用できるかなと思いました」

弁護人「容体がおかしくなったとかの時刻は話しましたか」

被告「一切話していません。ただ、急にバタンと倒れたって話しました」

弁護人「調書には、倒れたのは5時50分ごろと書いてありますがどうしてですか」

被告「『メールのやりとりから、2回目のセックスして、それから30分ぐらい休憩とか入れたら、大体5時50分ぐらいかな?』と言われたからです」

弁護人「『6時ごろに田中さんが白目をむきだして容体が悪化した』とか言いましたか」

被告「白目は倒れた後の状態だと言いました」

弁護人は、田中さんの容体が急変して、倒れるまでの様子の変化と時間の経過を細かく質問していった。押尾被告は検察側の冒頭陳述などで示された、田中さんの時間経過に伴う様子の変化をきっぱりと否定した。

弁護人「倒れる直前や倒れたときの様子が、時間的に前に調書で書かれているということですか」

被告「順序が違うと何十回も言いましたが、『順序は関係ない。大丈夫だから』と言われて調書にサインしました」

弁護人「(今年)1月14日にも◇◇検事から取り調べを受けたときに、何を言われましたか」

被告「『アゲハが昆虫自殺なのは間違いない。おれもこの仕事やっていなかったらシャブとかMDMAやってるな。ヘヘ』と言われました」

担当した検事に、押尾被告がだんだん不満を抱いていった様子が明かされていく。

弁護人「供述調書に『エクソシスト』や『呪怨』と書かれていますが、自分で言ったのですか」

被告「8月の調べで、『何かにたとえろ』と言われ、『あえて言うなら(映画の)エクソシストですかね』と言いました。『“うーん”といううなり声も何かにたとえろ、何でも良いから』と言われ、『映画の呪怨の男の子の声ですかね』と言いました」

押尾被告は、「うーん」のうなり声をリアルに再現させてみせた。

弁護人「取り調べの中でこれらの映画のDVDを見たりしましたか」

被告「何度も見ました。『とりあえず似ているものを見ろ』と言われ、エクソシストと呪怨を見ました。資料として使うと言われ、DVDを映している画面を指さしているところの写真を撮りました」

弁護人「1月23や24日にエクソシストや呪怨の画面を映した写真が添付された調書にサインするのを拒否しましたね。なぜですか」

被告「資料に使うと言われていたのに、調書に使われていたからです。『世論がうるさいから、お前は起訴せざるをえない』とか『お前、精神鑑定必要なんじゃねえか』とか言われて、信用しなくなりました」

取り調べを担当した警察官や検事についての質問に続き、田中さんの容体が急変したときの様子に質問は移っていった。

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